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エピローグ~one year later…2~ 大和・神風学園高等部。 アドラメレクが作り出した異世界から帰還し1年。 3月。卒業の季節がやってきた。 「ねりちゃん、くれはちゃん、一緒にかえろー!」 行成ハナ、福良練、日野守桜…いや、この改編後の世界では彼女の名は『姫神紅葉』という名前で統一されていた。 その理由は後述するとして、3人は卒業式を終え、共に校門へと向かって歩いていく。 最上級生である3年生だったため、これで3人共高等部を卒業。新たな道へと進むことになるのだ。 「それにしても実感が沸きませんね」 「うんっ。あ、でもこうして見ると、やっぱり成長したって実感するよねー…」 練は、紅葉とハナを交互に見ると、ほわぁ、といった雰囲気で和む。 二人は顔を見合わせると、首を傾げた。 「もう18だし成長もするよっ」 「ハナちゃん…そうですね、成長してるかな…」 「紅葉ちゃん!?憐れむような眼でみないでよー!」 冗談を言い合いながら、一歩一歩、高等部への校門を目指しゆっくりと歩く。 少し名残惜しいような、寂しいような表情をしながら、少しずつ。 「ん?3人共まだいたの?」 「あ、しどーくんも今帰り?」 練の声と共に、紅葉とハナも振り返る。 そこには同じく、卒業生である祠堂統がいた。 「祠堂くん、今日も伍代さんの所ですか?」 「伍代さん…には、最近はほとんど教えてもらってないけどね。自宅学習期間は、学校来ない日は大体行ってたなぁ」 「なんか1年前よりも、体がしっかりした感じだもんね!」 異次元から帰ってきた日から、統は土御門流の門下生となり、訓練を重ねていた。 異次元での、いやそれ以前からの地影忍者としての力は、殆どが弱体化していたため、鍛え直すべくだ。 「いやぁ…体のしっかりさ具合でいったら…」 「あー」 「紅葉、筋肉ついたもんねぇ」 「ちょっと、セクハラですよ?」 姫神紅葉。 彼女のベルゼルガーこそ残ったものの、魔改造されたベルゼルガーではなく一番初期のものに劣化していた。 そして、ハンターカードの効果がなくなったためか、彼女自身それを持てなくなっていたため、この1年間ずっとトレーニングをしてきた。 そのため、クラスも戦術クラスに移って本格的に筋力を付け始めたのだ。 「そもそも筋肉を使っている場所が、違うじゃないですか。私は腕、祠堂くんは足や手先ですし、比較するのが間違っていると思うんですけど」 「う、うわぁん…紅葉、怒らないでよ―…!」 「そういえば、皆進路って決まったの!?」 つーんとした態度の紅葉に焦り、強引に話を変えるハナ。 時期も時期なためか、話の切り替えは強引ではあったが、全員が食いついた。 「わたしは紅ギルドなんだー!」 「え?ハナちゃんも?」 「えっ…?わたしも!」 就職や進学という選択肢もあっただろうが、ハナ、紅葉、練の3人は全員紅ギルドに所属を希望していた。 この流れはもしかして?と期待の眼差しで、3人は統を見たが、彼はすごくバツが悪そうな顔で苦笑をする。 「なんかごめんな?俺は大学部に進学なのよー。ギルドは蒼ギルド」 「祠堂くんにはがっかりですね」 「ざんねん…ってくれはちゃん、そんな事言っちゃダメーっ!」 「…ねえ、俺姫神さんになんかした?」 わざとらしく涙目になりながら言う統に、普通の態度ですけど、と言い張る紅葉。 彼女を宥めていると、ふと練が気づいたように呟いた。 「あれ…?そういえばしどーくんはハンター一本じゃないんだね」 「私はハンター一本ですね、そういえば。進学しても良かったのですが、将来家督を継ぐのはアイツになりそうなので…」 「もーっ、そんなひどい事言っちゃだめよぅ」 「あいつ?」 統が尋ねると、ちょうど『アイツ』の声が聞こえてくる。 校門の方から、リムジンでのお迎えだ。 「良いタイミングだったな」 「あ、桜ちゃんだーっ!」 「うわ…」 風がそれなりに強い今日。 二つに結った金髪を靡かせ、腰に手を当てた女性が4人の前に居た。 彼女の名は『姫神桜』。 紅葉が日野守桜と名乗れなくなった理由であり、元悪魔のフェルゼその人である。 ☆ 4人はリムジンで送られながら、フェルゼの言葉に耳を傾けていた。 姫神桜と名乗ってはいるが、このメンバーの間ではフェルゼと呼ばれていた。 紅葉の機嫌もあるが、フェルゼが混乱を招かぬように、との事である。 「だったら最初からフェルゼのままでいればいいのに」 「何か言ったか?紅葉」 「別に」 「そうか。統、伍代殿にこれを渡しておいてくれぬか?」 事あるごとに小言を呟く彼女を、手馴れた様子でスルーするフェルゼに。練やハナは苦笑をしていた。 姫神桜は、この改変された世界では姫神紅葉の『姉』であり、姫神家の次期当主である。 つまり、次期宮廷魔術師候補なのだ。 フェルゼは、統にある手紙を渡すともう一つ付け加える。 「くれぐれも見ぬように。まあ、見られた所でどうということはない内容ではあるが」 「見ないよ…」 多少気になった統ではあったが、そう言われて見たい気持ちを完全に失った。 今まで2回ほど、フェルゼに言伝がてら手紙を伍代に渡すように頼まれたが、大体は厄介事なのだ。 その2回とも巻き込まれた身としては、聞かない方がまだ気持ち的に楽だ。 「ねぇ、フェルゼちゃん。迎えに来てくれたのは嬉しいんだけどね…?」 「『また』、何かあったのですか?」 練とハナが尋ねると、彼女は深く頷いた。 そして一人の人相の悪そうな男の写真を見せる。 4人は顔を見合わせるが、誰も知っていそうな者はいない。 それを確認すると、フェルゼは話を続けた。 「佐後下幹夫(さごしたみきお)。葵の板金工に務める男だ。勤務態度は良くはなく、よく無断欠勤もしていたらしい。そして、『呪い憑き』である」 ☆ 『呪い憑き』。 改変される前にはなかった言葉だ。 というのも、悪魔憑きを指すのがこの言葉だからでもある。 フェルゼが伍代に伝えようとしていた内容であり、これで紅葉、ハナ、練は2度目。 統に限っては3度目となる。 改変された世界では、稀に現れる悪魔のような化物がついた状態を、呪い憑きと呼んだ。 元悪魔だった現象は、形を変え呪いとして残った。 ちなみにラウムやベレトは呪いというよりは、呪い(まじない)の類に分類されるのだが、結局のところ大元は同じノロイとして分類されるのだろう(それを指摘したら、ラウムは烈火の如く違うと怒ると言うのがウバル談だが)。 「話を戻そう。その手紙の内容でもあるのだが、見てしまった以上お主達にも手伝ってもらいたい」 「いや見てませんし!元々巻き込むつもりなのは、誰が見ても明白でしょうが!」 「俺はどのみち、伍代さんに付き合わされるんだろうけど」 怒る紅葉と、もう3度目で慣れてきたせいか、呆れと諦めが混ざったような態度の統。 そして、そんな二人とは違って、練とハナは少しワクワクしていた。 この呪い憑きに関する事象は、フェルゼ達元悪魔の汚点でもあり、悪魔という概念がこの大和に無くなった今、ギルド等におおやけに処理してもらうのもフェルゼのプライドが許さない。 そこで各地に呪い憑きを発見した場合、速やかに『協力者』を率いて処理に当たる事に決めたのだ。 紅はフェルゼ、葵は伍代、茜はクレイ=マッドマン、粥満はウバル。そして最後の蒼はなんと小此木剛毅だ。 協力者とは、つまり悪魔を知る、異次元に行ったことがある者達である。 そのため、あの時のメンバーとの再会のチャンスでもあるのだ。 「葵勤務の男だが、現在は紅に逃亡中との情報が入っている。なので、担当地区が2つにまたがった事により、伍代殿との協力ミッションとなっているのだ」 「えっ…?逃亡中って、その佐後下さん何かしたの…?」 「うむ。強盗殺人を行い、紅に逃亡中に更に2人の者を病院送りにしておる」 「ちょっと!!今までで一番危険じゃないですかフェルゼ!」 「一番も何も、まだ二回目だろう?」 少しワクワクしていた練とハナだったが、その気持ちが一気に萎えた。 参考までに言うと、前回は呪い憑きの少年の保護、そして呪いと呼ばれる元悪魔の解放を平和的に行っていたせいだ。 統は練ハナ紅葉とは別の1件が似たようなケースだったため、驚きはなかった。 「協力者はお主らの他に1名。白神だ。こ奴も案外暇だな…」 ラウムと関わりが強い彼のことだし、この件に関しては積極的に関わってくれている事がわからない筈がないフェルゼを、四人は白い目で見ていた。 リムジンは、こうして望まない現地へと向かうべく、無情に走り続けていたのだった…。 ◆日野守桜→姫神紅葉 異次元帰還後、フェルゼが姫神家の長女へとなっていたせいで、色々と複雑な気持ちが爆発。 1年後の今日でもその気持ちは衰えず、反発している。彼女とフェルゼの和解はいつの日か。 また、そのせいもあり将来は姫神家の跡継ぎをしなくてもよくなったため、ハンター業に専念することになった。 ◆フェルゼ→姫神桜 異次元帰還後、人間になることを望んだ彼女は、その通り人間へと変化。 姫神家の長女となり、次期宮廷魔術師候補として姫神家の代表となりつつあった。 東十常一、姫神百合、土御門正宗の大貴族御三家の一角として、同じく次期宮廷魔術師の伍代やまだまだ未熟な司と共に連携をしつつ大和の世界に馴染んでいく。
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エピローグ~one year later…3~ 大和・茜スラム街(第二エリア)。 そこを2人の男女が歩いていた。 そして、彼らの行く手を阻むように男達が囲む。 「鬼ヶ原空…だな?」 「悪いが死んでもらう」 言うが早いが、男達は連携して空へと剣の刃を向ける。 後方にいる男は、銃を構えた。 その数8人。 「シドさん」 「任せてもらおう」 空と同行していたにシドと呼ばれた巨体の男、槐志度は右手を向け力を込める。 するとぱっくりとアイスクリームを切り取ったかのように、前方にいた5人の男達が、地面ごと抉り取られ消えた。 「チイッ!化け物が!」 「一旦撤退だ!ここ第二エリアは俺達の方が把握してる。地の利がある!一旦引いて、一人の所を…」 「そうはいきませんよ!ここで大人しくタカシ君達を返してもらいます!」 後方から聞こえた声に、男の一人が振り返る。 幸村カヤは魔術でダイスを生み出した瞬間だった。 その数字は1。 竜の力は無くなったものの、その後も自身の技の改良を続け、「敵にかける」ハードラックコレクターの強化に成功していた。 「は…!?なんだこれ…!?」 「さて、ファンブルのお時間です」 声が辺りに響くと共に、二人の男の体が粉々に分解される。 「う、うわァッーーー!俺の、俺の体がァッーーー!」 「い、痛くねえ!でもこれじゃあ何もできはしねえっ!!」 「いつ見ても慣れない技ですね…」 「これで命に別状はないって言うから怖いよな」 カヤの近くに移動した空が呟きながら頭上を見上げた。 そこにはスーツ姿の悪魔、クレイ・マッドマンの姿が。 分解された男達の散らばっているパーツの口から悲鳴をあげてはいるが、特に痛くもなんともないようで、徐々に4人への罵倒へと言葉が変化していく。 その言葉を無視しつつ、少し男達に同情を覚える空。 「さすがに悪魔と第三エリアの人間相手じゃなあ…」 「能力的には私達と同じくらいみたいですけど、その二人のお陰で反則ですよね」 「…それよりもいいのか空。残った一人が逃げていくぞ」 「おっと忘れてた」 カヤのサーチアイで、能力的には同じとは言ったものの、加速装置作成を発動し瞬時に追いつき、続けて魔界扉作成で体力を奪い無力化する空。 能力こそ同じ程度とはいえ、ただのチンピラ程度では彼女達の相手にはならない。 「下っ端の中でもかなり下っ端の連中か。幸村、ガキ共見つけたぞ」 「本当ですか!?クレイさんすみません、助かりますっ」 カヤは男達をシドと空に任せると、真っ先にクレイの指定する方向へと駆けて行った。 ◆クレイ・マッドマン 異世界から帰還後、兄であるファニーに空の保護を頼まれたため、茜のスラムに潜むように生活をしている。 情報屋として空の助けをしてはいるものの、何かと茜ギルド長である新城抉の使いパシリにされているカヤと絡む事の方が多い。 ☆ スラム第一エリアは、多々抗争などはあったものの現在は落ち着きを取り戻している。 第一エリアのボスである灰原は、茜ギルドとも協力する体制をとりつつ、空等の茜所属のハンター達の助力を受けつつスラムの平穏を保っていた。 賛否両論はあったもの、主にスラム出身の空や、スラムの少年達と時折り遊んでいるカヤ達を歓迎する者達も多く、スラム第一エリアと茜ギルドは友好的な関係を築けていた。 それも全て、彼女ら二人を中心としたハンターやそれに関わる者達の努力の賜物だろう。 「B-ライザス?」 「うむ。それが今回、少年達を誘拐した組織だろう」 スラム第二エリア、北東部。 空達が指定した酒場のような施設へ入ると、沢山のスラム住人達に囲まれ、その中心に髪を二つに結った幼女がいた。 彼女はこのスラム第二エリアを統治する4人の支配者の一人で、新城抉とも知っている仲のようだ。 数年前、新城が茜ギルド長に就任した頃に、一度ハンター達に助けてもらった経緯があるのだが…それは今回は置いておき、話を戻そう。 彼女…マリーアは幼女の姿ではあるが、成長不足なだけでこれでも40代のオバサンらしい。 よく見れば、目尻に皺があるのだが、それを指摘して周りのスラム住人に銃撃されたクレイのようにならないべく、空やカヤは沈黙を保っていた。 「この私、マリーアとB-ライザス、enigma、それから死魔火(しゃまか)という四名がこのスラム第二エリアをそれぞれ統治しており、お互い抗争も激しい。 どこからか、私が茜ギルド長の新城と交流がある事を知ったため、その手下であるスラム第一エリアのスラム住人を人質に取ろうとしたのじゃろう」 「手下とは灰原の事か?」 「この場合、そうなのだろう」 本人に聞けば、絶対に違う!と言い張りそうではあるが、この場に彼はいないため空は何も言わない事にした。 ちなみに、灰原は子供達を守ろうとして銃撃を受け、命に別状はないが負傷中である。 第一エリアのボスも、本人はノリノリではあったが、他にやりたがる者もおらず、消去法で祭り上げられているという事は皆黙っていた。 「では、私はタカシ君達を第一エリアに送るので、これで…」 「ん、助かったよカヤさん」 そのまま皆がカヤを見送る視線だったが、そこに彼女にタイミングよく電話が入る。 電話相手は新城抉。茜ギルド長であるその人だった。 「…はい、もしもし」 『ああ、幸村さん。今どこにいらっしゃいますか?少し、お願いしたい事がございまして』 携帯電話から漏れた声に、この場にいる全員が顔を歪めた。 直接新城から電話が入る=嫌な頼み事に決まっているからだ。 ちなみに断った者は、向こう1ヶ月は依頼を一切回してもらえない。 茜中心に動く者にとって、恐怖の電話でしかなかった。 「いや~…今ちょっと依頼中でして」 『ええ、スラム第二エリアですよねぇ?ちょうどよかった。今人手が足りなくて、少しお手伝いをしてほしいのですがねぇ…』 「ですから依頼中で!」 その新たな依頼内容はこうだ。 B-ライザスの拠点を潰す。 手段は問わず、生死も問わないらしいが、もちろんカヤは忙しいと理由を付けて断った。 新城への対抗策ではないが、依頼完了報告前に、新たな依頼を頼んできた時は、その旨を伝えれば新城も渋々引き下がり、ペナルティは無いからだ。 だがしかし。 『そうですかぁ…ならばその件は、塚田マキさん一人の担当になってしまいますねぇ…。いや、貴方は彼女と親交もあるので、ペアで行わせたかった依頼だったのですが…それなら仕方がない』 「えっ!?マキさんに向かわせてるんですか!?」 マキとは奇妙な縁で、色々と絡んだ事が多いカヤ。 その彼女が一人で、さすがに先程のような下っ端の強さではない者達と戦う事を想像したら…いかにマキがカヤや空よりも強いハンターと言っても、無謀というものだろう。 『それに、報酬は今現在、貴方に請け負わせている報酬の10倍は用意しているというのに…いやあ残念ですねぇ。他の方…黒野何とかさんというハンターにでも、お願いしましょうかねえ』 「~~~っわかりました!行きます!その依頼受けますよ!」 涙目になりながら、魅力的な報酬と世話になっている者の窮地を脅しにかけられ、カヤは返事をした。 同情するような視線を向けられながら、カヤは務めて明るく、行きましょうかと皆へ声をかける。 「場所は南東部。スラム第一エリアと繋がるエリアだな。そこがB-ライザスの統治するエリアらしい」 「私もいくぞ。元々それが目的だしな」 「異論はない」 「皆さん…助かりますっ」 一致団結した4名。 しかし、彼女らを見る周りの視線は暖かくはなかった。 タカシ少年達をマリーア達に任せ、カヤ達出て行った後マリーアは小さく呟く。 「新城にいいように使われておるな…」 と。 ◆幸村カヤ 異次元帰還後、茜ギルド所属を中心とし、ハンター活動を続けている。 ここ数年でお世話になった人達の依頼は、格安か無料同然で受けていた所を茜ギルド長である新城に目をつけられ、利用されるようになる。 そのせいでスラムでの活動も多く、クレイ・マッドマンとはその度に助けたり助けられたり。 また特殊技に関しての研究も行っており、特殊技の改良が得意な風見やその道のエキスパート達に教えを請けにいくように。 スラムのタカシ達とは、月に2,3回、食事をつくったり遊んだりしてあげるくらい、スラムに根強く関わっている。 ☆ 第二エリア、南東部。 B-ライザス統治エリア。 そこにカヤ、シド、クレイの三名はいた。 粗大ゴミの山の上に、シルバーアクセやピアスだらけのチャラそうな男―B-ライザスが3人を見下ろしており、彼女らの周りには先ほどのゴロツキより遥かに強そうな者達に取り囲まれていた。 先程のカヤとクレイのコンボも、彼の特殊な力によって阻まれている。 そして、同じように彼の特殊な力によって捕まったマキは、人質に取られていた。 「ハァ。第三エリアの人間が来るっつーから、少しは期待してたが…俺の『クラック』の前には手も足も出ねェ、ションベン共じゃねェか」 「カヤ…!すまない、あたしがヘマをしたばっかりに…」 「マキさん!うぅっ…この力は一体…」 体が鉛のように重く、そして魔術・特殊技を一切使えない。 そんな状況にクレイは焦りを見せた。 「クラック…また異能の一種か」 「おそらく奴も俺と同じ第三エリア出身の人間だろう。…そうと分かっていれば、もう少し警戒をしてかかったのだが」 「今更気づいても遅いんだよションベン!」 無数のナイフを取り出し、三人の頭上へと投げる。 B-ライザスはそれを見て不敵に笑みを浮かべ、叫んだ。 その一言により、ナイフは強大な加重の力を得て、カヤ達を貫く凶器へと変わる。 「クラッ…!「そうはいかんよ」」 勝利を確信したB-ライザスの喉元に、これ以上言わせまいとスティレットが当てられる。 ルシィラ、空専用の武器であるそれを見下ろし、B-ライザスは息を呑んだ。 「ガキ…どうやって?」 「野良猫にゃおーん♪」 無表情のままそういう彼女だったが、すぐにその言葉は歌へと変わる。 「グアアアアアやめろおおおおおおおおお!」 既に耳を塞いでいたカヤ達。 彼女達以外のゴロツキは全員、空の地獄歌に耐え切れず倒れていた。 「クラック、キャンセルっと」 「そういう事ができるなら、もっと早くやってほしかったですクレイさん」 小型のタブレットを取り出し、鼻歌を歌いながら弄っているクレイ。 クレイの真の能力であるパソコン操作は、タブレット操作へとこの1年、時代と共に変わっていた。 原理は不明だが、彼がタブレットを弄ると、色々な事が変化するらしい。 もっとも兄と同じく弱体化しており、異次元でやったような能力操作等はできないというのは本人談だが…。 話を戻し、解除された隙をついてカヤが、空の地獄歌に合わせてグッドラックを発動していたのだ。 いわばグッドラックと言うよりは、セブンズラッキーとも言うべきその力。 空の地獄歌も、その威力を遥かに増しており、異次元の時には及ばないまでも強力な一撃と化していた(名誉なことではないが)。 「ふむ…俺はただ立っていただけ、か」 3人の活躍に、寂しそうに眉を落とすシド。 そんなことない、と言わんばかりに背中を叩く空。 このやり取りが、この1年間の二人の絆を表しているのだろう。 「せっかくだし登也達にも聞かせてやりたかったな」 「やるなら兄者だけにしておけ、音痴姫。で、この男どうする?」 注目は地獄歌を間近で聞き、瀕死状態のB-ライザスに向けられる。 彼は最後の力を振り絞り、こう告げた。 「このションベン共が…俺が死んでも、他の二人…特にenigmaが、テメェらを狙ってんだよ…!」 「そうか」 カヤとシドは、負傷したマキを運び出していた。 話を振ったクレイも、兄者であるファニー・マッドマンへと悪魔の力というべき特殊な能力で、連絡をとっていた。 話を聞いていたのは、淡白な反応しかしない空だけだった。 虚しさと切なさに押しつぶされ、B-ライザスが気絶するのを見届ける空だった――。 ◆鬼ヶ原空 異次元帰還後、茜ギルド所属のまま、スラムを中心に活動を始める。 腐れ縁の灰原がひょんな切っ掛けから第一エリアのボスになったため、彼もまた新城ギルド長にいいように使われており、その繋がりで空にスラム関係の依頼が回る事も多くなった。 槐シドとは帰還後2ヶ月くらいしてから、彼の相方の尸ヨミがお笑い芸人を目指してスラムから消えたため、彼が戻るまで知った仲の空に協力することにしたらしい。 ☆ 場所は変わり、茜ギルド。 報告に来ていた空とカヤは、新城に笑顔で迎えられる。 「いやぁ、さすがでした。失敗したら、出雲支部から柳さんを呼び戻す所でしたが、これならこのまま依頼を続行しても問題なさそうですね」 「え?報酬は!?」 「嫌ですねぇ、幸村さん。私は『B-ライザスの拠点を潰したら』と言ったのですよ?本人は倒しても、まだ拠点は潰れていません。 それどころか、北西を統治しているenigmaチームに占拠されてしまったようで」 「…じゃあ、次はそのえにぐまを倒せって事か…」 「その通りです鬼ヶ原さん。ああ、塚田さんは負傷して休養中で、他のハンターも手が回らないそうなので、この件は引き続きお二人に請けて戴くことになりますので」 にっこり笑みを向けて、enigmaの知りうる情報を話し始める新城。 あーあ、と呆れ気味の空に対し、カヤは自分の財布を出して、見る。 「あのー、ギルド長。前金とかは…?」 「あると思います?」 「理不尽だぁぁぁ」 今月もピンチ確定。 スラム関係だから空は問題無かったが、こうしてカヤは新城ギルド長にいいように使われていくのだった…。
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エピローグ~one year later…12~ 茜、裏路地にあるとあるBAR。 そこには貸切の看板がかかっており、中には神崎信が一人でカクテルを飲んでいた。 「…」 「来たか」 入ってきた人物は深海将己。 神崎に呼ばれて来た彼は、神崎に軽い会釈をすると一つ離したカウンター席へ座る。 「どーも」 「指定時刻より僅かに遅れたぞ」 「いや、リニア乗ってこの時間だし普通に無理でしょ」 「冗談だ」 そうですかと鼻で笑って返していると、すぐにバーテンダーが注文を聞いてきたため、適当に注文をする。 本当は桜木有布達と少し会話していたため、リニアに一本乗り遅れたのだが…それを説明するつもりはなく、また神崎も事情までは知らないだろうが、リニアに一本遅れた事は知っている。 大体人をからかう時の神崎信とは、そういう男だ。 「ああ、最初に。今回は私の奢りだから好きなだけ飲むといい」 「じゃあ遠慮なく」 と言っても高額なボトルを一本入れた所で、天下の宮廷魔術師の顔色は変わる筈もなく。 また嫌がらせも兼ねて沢山頼もうかとも思ったが、さすがに飲みきれないのに注文するのは店への迷惑にもなると考えるだけの常識は、社会人として持ち合わせているため、先程頼んだ注文につまみになりそうなものを注文しただけだった。 バーテンダーに注文を終えると、早速神崎が口を開く。 「単刀直入に聞く。深海、お前宮廷に入る気はあるか?」 「…は?」 「宮廷だ。二度も言わせるな」 「本気で言ってます?神崎ティーチャー」 神崎は答えない。 そして、この可能性も将己は予想はしていた。 こんなこと以外で、わざわざ電話をかけてくるならばよっぽどの事態だろうし、依頼ならばギルドに将己指定で出せばいいだけだ。 更に言えば、ハンター業に精を出しているわけでもないため、それ以外の用事ならばわざわざ将己を呼びつける時間よりも、ギルドで暇を持て余している高クラスハンターの方が効率はいい。 突然の言葉に困惑はしたものの、改めて冷静に考えているうちに、神崎は話を続ける。 「宮廷といっても、私の下で数年は働いてもらう。そして、いずれは宮廷魔術師になってもらいたい。返事はそんなにすぐでなくとも構わん」 「…」 「ああ、ちなみに断ってから後で『やっぱりやりたいです』と言っても、もう受け付けないからな」 「まあ、いいですよ。いつから行けば?」 予想以上に早い返答に、これにはさすがの神崎も驚きの表情を見せた。 咳払いをし、神崎は努めて冷静に振る舞う。 「手続きがまだ済んでいないから、来月からだ。もっとも、私には部下が一人もいないからすぐ受理されるとは思うが…」 「何か筆記試験とかあるんすか?実技とかも、宮廷ならなんかありそうなイメージ」 「いや」 そう言って、言葉を切り暫く考えるような素振りを見せる神崎。 直ぐに携帯電話を取り出し、電話をかけ始める。 繋がったと思うと、筆記や実技の試験が宮廷員として採用事項にあるのかを、電話の向こうの相手に問う彼に珍しさすら覚える。 隙が全く無いわけでは無いが、こういう部分で手回しが悪い神崎信を見るのは珍しい。 「そうか、では筆記は免除でお願いします。確か貴方の担当ですよね?人事は」 前言撤回。 改めて確認しつつ、『免除で』というワードを言いたかっただけなのだ、神崎は。 敬語という事は、年上の相手だろうかと思いながら聞いていると、通話を終えた神崎が説明を始めた。 「まず、筆記は免除。実技はあるが、まあ異次元から帰還して弱体化した今の深海でも、問題ないだろう。魔術の操作が主な実技だからな」 「また面倒くさい内容っすね」 「フ、試験は12あり、そのうちの私の所属する部署の試験は結構面倒臭い事で有名だからな」 それぞれの宮廷魔術師の機関に応じて試験内容も変わるという事だろう。 「ちなみに、試験監督は別にいるから、私は実技試験に立ち会わない」 「そういえば面接とかないんですね」 立ち合いが面倒くさい、と即答され、思わず笑った将己。 まあお前がヘマをしなければ、採用は間違いないと続けて言われて、疑問に思ったことを神崎にぶつける事にした。 「じゃあ、ちょっと幾つか聞いても?」 「ああ、私に答えられる事ならばな」 「まず一つ目。12人の宮廷魔術師、全員教えてもらう事は?」 言うと思ったぞ、と言わんばかりに鼻で笑うと、「答えられる範囲だけでだが」と神崎は前置きし。 「まず不名誉な派閥名を使われている神崎派から。私や黒塚宮の事は割愛する。 それ以外で残り二名。炎治陽機(えんじはるき)。主に彼の機関は、人事を担当している。 先程の携帯電話にかけたのがそうだ。宮廷魔術師の一人だ。 …というのは表向きで、裏は宮廷のスパイ等を暗殺する部隊でもある。精々目を付けられないようにしろ。彼の火属性魔術は、大和でトップクラスと言われているからな」 「採用も排除もその人次第ってワケか」 笑えない冗談だな、と鼻で笑い、神崎は煙草を吸い一息つく。 「もう一人は神楽屋織姫(かぐらやおりひめ)。裏の顔は無く、表も裏も宮廷での研究機関を担当している。人を喰ったような態度だが、一々態度に苛々したり嫌悪感を出していたらそれこそ彼女の思う壺だろうな。 黒塚と同じような天才タイプ…というと黒塚に悪いか。クセだらけではあるが、それなりに下手に出ていれば、色々と便利なアイテムを作成してくれるオバさんと思っておけばいい」 「オバさん…」 黒塚宮が最年少での宮廷魔術師と、一時期持てはやされた事があったから、やはりそれなりの歳なんだろう。 年増の相手もしなきゃならないのか、と一瞬考えが過ぎった。 「ちなみに、アイテムを作ってほしかったらギブアンドテイクがモットーな彼女だ。 彼女の部署の書類整理だったり、人体実験だったり、彼女の気分次第で変わるからあまり利用はしない方がいいな」 「ろくでもねーな」 人権とか関係ない世界か、と人体実験のくだりで乾いた笑いをする。 これで神崎派の説明は終わり。 続けて中立ではあるが、国木田明夫の説明を受けたが、元ハンターで目に関する術を得意とする変わった宮廷魔術師という事くらいが収穫か。 神崎派でもなければ、行成ハナの祖父という事をどこかで聞いた事はあったが、メディアなどに露出するタイプではないため、余り情報は出てこない。 メディアへの露出が多い神崎、黒塚は元より、御三家である東十常、姫神、土御門もメディアにこそ出ないが、彼らのお膝元である粥満、紅、葵の邸宅周辺の者なら知らない者はまずいない。 神崎派の炎治、神楽屋は同じ派閥という事で神崎も知っているのだろうが、国木田は別。 行成ハナを通じた所で、国木田自身、ハナに宮廷魔術師の内容をペラペラしゃべるような者ではない。 「後は中立と言えば、八神と呼ばれる帝付きの宮廷魔術師か」 「八神?そんな名前、学園の過去の資料で見たような…」 「ああ、それとは別だ。何十年も仕えていて、表の宮廷魔術師筆頭が東十常なら、裏はその八神といったくらいに表にはまず出てこない。私ですら数度しか見たことがないくらいだ」 「へえ」 相槌を打ちながら、学園に過去に在籍していた人物とは違う事を改めて認識した。 話はまだ続き、続けて宮廷魔術師筆頭であり、御三家筆頭でもある東十常一(はじめ)、の説明が。 続けて姫神百合、土御門正宗の説明がされたが、ここら辺は改編前の情報を知る者に聞けば、改めて今特筆すべき事項は無かった。 「東十常は義理の息子である剣(つるぎ)が、改編後の世界でも『死なない』という点以外は役割は同じだったため、殺しきれなかった土御門正宗に捕まったせいで牢獄の中だ。 東十常の孫息子も、祖父のようなカリスマは持ち合わせていないから没落するのも時間の問題だろう」 「メガネ十常っすか」 将己は過去に少しだけ、孫息子に関わったことがある。 だがそれを改めて、今ここで言うつもりはなく。 「問題は姫神と土御門。父である土御門正宗は大和最強ともいわれているが、脳筋で政治に関しては大した頭は回らん。その息子である伍代の狡猾さはお前も何となくは知っていると思う。 そして姫神。ここはノーマークだったが、あの悪魔が人間になり、姫神桜と名乗り姫神家の長子になったという事だけは厄介だな」 「フェルゼって悪魔でしたっけ。そういえば悪魔ってどうなったんすか?」 「悪魔ラウムは、悪魔という概念が無くなった今、神と同等の存在として祀られている。以前のように姿は見せる事はないが、この大和のどこかで我々を見ているかもしれんな。 悪魔ロノウィは元々存在しない悪魔として、改編後は処理されている。 悪魔ウバルは粥満の小さな教会で、神父としてひっそりと暮らしており、こちらからどうこうしない限り、我々と接点を持つことはまず無いだろう」 ラウムの説明が終わった段階で、メモを取り出して書いていく将己。 最初のフェルゼから、これで四人。 「後一人は?なんですっけ、あの鎧だけの」 「悪魔ベレトか。あいつは悪魔のままだ」 「…悪魔という概念自体無くなったって、さっき言ってませんでしたっけ?」 「そう、悪魔という概念は無くなったのにベレトは悪魔のまま。矛盾が生まれている」 「は??」 混乱している将己に、神崎は「これはラウムに改編前最後に聞いた事だが」と前置きをして。 「この世には3つの大きな悪魔が存在しており、今回悪魔という概念が消え去ったのはこの大陸を管理していたアドラメレクという悪魔の管轄だけの話らしい。つまり、アドラメレクの管轄外の残り二つのエリアで悪魔は活動を続けている。此処までは分かるな?」 「何となくは。でも答えになってねーんじゃ?」 「お前も要請を受けたかは知らんが、現在フェルゼや土御門伍代が中心となり、大和に潜む悪魔の残党の処理を行っている。それにより、大和で男爵以上の…高レベルの悪魔は数えるくらいしかいなくなってきた。悪魔には爵位があり、アドラメレクは公爵、ラウム達五大悪魔は伯爵だ。男爵以上の爵位を持つ悪魔は、この世の歴史になんらかの影響を与えた事がある悪魔と言ってもいいだろう。 だが、悪魔という概念が消えた今、その高位の悪魔は何らかの存在として置き換えられている。少なくとも、アドラメレクの管轄だった悪魔については。 ラウムは神と同等の存在に。正確には、ロノウィは大昔に討伐されたという『てい』らしい」 「じゃあ、ベレトは?」 「あの悪魔がそれこそ問題なのだ。悪魔から置き換わった者は、少なからず何らかの影響が出始めている。ロノウィは『現代に存在しない』、ラウムは『神へと昇華し存在自体が我々に触れる事ができなくなった』と。しかし、あの悪魔ベレトはどうか」 目を閉じ、一息つくようにカクテルを神崎は飲み干した。 話が回りくどく長いな、と将己は思ったが、どうやらラストスパートに入ったようなので口にはせずに黙って聞いて。 「ベレトは空間転移を駆使し、悪者退治ごっこをしているらしい。つまり、改編前と変わらず悪魔のままなのだ。 話を最初に戻す。悪魔という概念が消滅したこの地で、悪魔が存在しているという矛盾。 やがてくる『揺り戻し』で突如消えてしまわないよう、『最後の刻』をフェルゼや土御門伍代は与えているにすぎない。 即ち、悪魔ベレトという存在は――」 「やがて、消えてしまう。ってことですよね?」 奥の方から、そう呟くように現れたのは幸村カヤだった。 一瞬、将己も神崎も驚きはしたが、なぜお前がいると言わんばかりの目つきで彼女を見る。 彼女はその視線の意味に気付き、抗議するように聞いてもいない事を喋り始めた。 「ギルド長の依頼で、ここの皿洗いのバイトだったんですよっ…!!やけにまともな依頼だと思ったのに…」 「同情するが、盗み聞きはダメだろ」 「私だってしたくて盗み聞きしてたわけじゃ…!」 「それよりも、よく知っているな。あの双子の悪魔の片割れか?」 話を戻す神崎に、「はい」とカヤは頷いて見せて同意する。 双子の悪魔。二人共、悪魔であることを望んで今を生きるファニー・マッドマンとクレイ・マッドマンの弟のクレイの方の事をここでは指す。 「確かクレイさんは侯爵クラスの力はあるって聞いてますが、力を無理に使わなければ人間よりも長寿で100年くらいは生きるって話で」 「それより格が落ちて、バンバン空間転移をしてる悪魔は」 「その半分以下…いや10年持てばいいところかもしれんな」 それをベレトが知っていても知らなくても、ここの3人にどうする事もできないし、特に神崎にはどうするつもりもなかった。 席を立ち、二人分の会計を済ませるため、カヤに会計を頼み、彼女は奥へと再度引っ込んだ。 「向坂に知らせてやったらどうだ?同じ所属ギルドだろう?」 「…そこまでしてやる義理も無ければ、教えた所で絶望なだけでしょ」 「悪魔の寿命、と言った所か。まあ、私にも関係がない話だ」 「俺にも関係ないですけどね」 お互いにドライな態度に笑いながら、席を立つ。 此処ではこれ以上の話は、よろしくないと判断したからだ。 そんなことを思いながら、二人は共にBARから出て行った。 「…でもまさか、深海さんが宮廷入りするなんて…」 「ああ、幸村。この事は他言無用だ。言ったらお前のギルド長もろとも、蒼の海に沈むと思え」 「ひぃやあ!い、いたんですか!?わ、わかりました!言いません!ぜーったい言いませんから!!!」 出て行ったと思った後に呟いた言葉が、まさか警告に来た神崎に聞かれてるとは思わず、飛び出しそうな心臓を抑えて深呼吸するカヤ。 BARの入口を開けて、今度こそ神崎と、ついでに将己も帰ったことを確認し、彼女はマスターに業務の終了を報告するのだった――。 ◆深海将己 異次元帰還後も変わらず、葵ギルド所属の兼業ハンターで、旧い馴染みと起こした会社の経営を行っている。 非常勤役員という立場で、且つ従業員も雇った事で、ある程度自由が利く身に。 週一で休みをもらう事を条件に、神崎の宮廷への誘いも受諾した。 神崎の部下として、政治だけでなく国の暗部や派閥抗争にも触れる事になる。 ◆神崎信 異次元帰還後、宮廷魔術師として未だ宮廷に所属する。 将己には言っていないが、彼を勧誘する前に一人の宮廷魔術師を失脚させた。 愛国心が強い一方で、大事のために小事を犠牲にするような冷酷な判断も行える男。 彼の身辺警護として、包帯に身を包んだ黒服の男を一人雇っている。 ◆悪魔ベレト 異次元帰還後、悪魔として自分自身の意志でこの世に干渉することを選んだ。 悪魔の力で、犯罪者を懲らしめては逃亡を行っている。 時にやり過ぎる事もあるため、ギルドでは要注意人物(?)として手配されている。
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2014年12月20日(土曜日) いずこねこラストライブ「世界の終わりのいずこねこの終わりの始まり」@渋谷WWW 前売 3,900円 当日 4,200円 開場 15 45 開演 16 30 + 出演 19 40- いずこねこ 出演/タイムテーブル 16 30- 第1部 映画出演者トーク LIVEPIP プティパ! 姫乃たま Peach sugar snow classic fairy ライムベリー みきちゅ トーク出演(木村仁美、宗本花音里、コショージメグミ、西島大介aka DJまほうつかい) 18 05- 第2部 『世界の終わりのいずこねこ』上映 19 40- 第3部 いずこねこラストライブ セットリスト01 rainy irony 02 e.c.l.s 03 white clock 04 squall cut 05 e.c.i.n 06 BluE 07 nostalgie el 08 last cat factory (MC) 09 i.s.f.b
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作:プラスマイナス PM 19 35 住宅街 比良埼 藍と別れた草加 雅菜は、彼女や先の男子生徒(一之瀬 裕輔)のように夜道を出歩いている生徒がいないかと帰路に着きながら見回りをしていた。 好奇心からなのか、それとも自分のように何か事情があるのか、想像以上に夜の街を出歩いている生徒は多いようだ。 そんな中、雅菜は知った顔に出会った。 「神宮寺さん!!」 「草加会長!?」 雅菜が夜道で出会ったのは、ボード学園の制服を着た少女だった。 左の袖には『ボード学園生徒会』と書かれた腕章をしており、彼女が雅菜と同じ生徒会のメンバーだと一目で理解できる。 尤もボード学園で彼女を知らぬ人間は殆どいない。それほど彼女は有名だった。 神宮寺 千夏 ボード学園生徒会の副会長を務める高等部2年生の少女。 真面目で規律正しく少々口うるさい部分もあるが、同時に世話好きでもあるので生徒たちからの人気も高かった。 当然、会長を務める雅菜ともほぼ毎日会っている。だが学外で会うのは意外にもこれが初めてだった。しかも夜道で。 「神宮寺さん、こんな時間に一体何をしているの?」 「ああ、実はね…」 千夏の話を聞いたところ、どうやら千夏は華枝が行方不明になった事件以来、自主的に夜間の見回りをしていたらしい。 案の定、彼女の不安は的中し行方不明事件や怪物騒ぎが起こったというわけだ。 「そ、そんな話は初耳よ!?」 「あくまで個人的にやっている事だし…でも生徒会の腕章をしたままというのは職権の乱用よね、すぐに外すわ」 「いや、そういう事じゃなくて…神宮寺さんも危険よ、早く帰りなさい」 「大丈夫よ。護身用に…これを持ってるから」 そういうと千夏は警棒とスタンガンを取り出すが、雅菜はそれでも納得はしない。 (こんな物で怪人なんかに対抗できるわけない) 雅菜はそう思い、見回りを続けようとする千夏を引き止める。 彼女は現在この街で起こっている事件の真相を知らない普通の学生。危険な場所からはなるべく離れたほうが良いに決まっている。 しかし、それはあくまで雅菜の見解だが… 「と、とにかく。今晩は神宮寺さんも家に帰って。いいわね」 「わかったわよ。でも何そんなに焦ってるの?」 千夏は雅菜の態度を不審に思うように帰路に着き、雅菜もそれを見送ると自身も帰路に着くのだった。 「ふぅ、まさかこんな所で草加会長に会うなんて…本当に何かあったの?」 雅菜と別れてから千夏は人目を避けた場所にいた。 見回りをしていたのは本当だ。しかし彼女の目的はそれだけでは無い。 “ボード学園生徒会・副会長”としての神宮寺 千夏ではなく“一ノ宮財閥暗部・七つの大罪”としての神宮寺 千夏が“今の”彼女だ。 敬愛する一ノ宮 薫子からの密命を受け、街の様子を探っていたのである。 「何かあったと考えるべきよね。一応連絡しておくか…」 そう言うと彼女は懐から携帯電話を取り出し、街に潜入している実働部隊に連絡を入れた。 場所不明 時刻不明 謎の液体で満たされた巨大なシリンダー。 意味不明の数式が書き殴られた天井、壁、床。 日本語や英語、フランス語など多くの文字で書かれた書類が乱雑に散らばっている。 それ以外にも計器が様々な情報を知らせている。 そんな部屋にいるのはただ一人。 漆黒の服装に身を包んだ容姿端麗な美女だった。 美しい金色の長髪にモデル顔負けの長身に顔立ち。しかし表情は暗く、それがすべてを台無しにしているように感じられた。 瞳は虚ろで濃い隈が出来ており、顔色も良いとは言いがたい。 女の名はアリス。 人は彼女を“狂気の魔女”とも“史上最悪の天才”とも呼ぶ。 しかし彼女はそれを知らない。知ろうともしない。関心もない。興味もない。 他人のことなどどうでもよい。 彼女の目的はたった一つ。 己の研究の完成 それだけだった。 「くそっ…何故なの!何が間違っているというの!?」 アリスは何かの薬品の調合をしていたが、どうやら失敗したようだ。 そのまま薬品を無造作に投げ捨てると、小規模ながら爆発が起こった。しかしアリスはそれすら気にも留めない。 壁に書き殴られた数式の上にさらに新しい数式を書き出す。 壁には既に何重にも数式が書かれており、どれが新しい数式なのか常人には理解できないだろう。だが、アリスはそれらを全て判別し同時に理解している。 この行為だけでもアリスが途方もない頭脳の持ち主であると、想像に難くない。 「ちっ…」 アリスは苦々しく舌打ちをすると、数式を書くのを止めて書類棚へと歩を進める。 書類棚には乱雑にファイルや資料が突っ込んであり、整理整頓とはほぼ無縁の様子だ。 アリスはその書類棚に手を突っ込むと、次々と資料を引っ張り出す。時折タイトルを確認するが基本的には出しては放り、出しては放りを繰り返す。 「…………………これだ」 目的の物を見つけたのか、アリスは散らかり放題の書類棚をほったらかしにしたまま、手にしたファイルに目を向ける。 しばらく読み続けると、突如思いついたように部屋を出た。 広い廊下 研究室を見た限りではわからなかったが、そこはかなり大きな屋敷だった。 散らかった研究室とは対照的に廊下は塵一つ見つからないほど綺麗だ。いや、研究室以外は綺麗といった方がわかりやすいだろう。 アリスがファイルを読んだまま廊下を歩いていると、執事のように燕尾服を着た青年と出くわした。 青年はアリスを見つけると深々と頭を下げたが、逆にアリスは青年を見つけると苦々しい表情をする。 「…出かけるわ」 「では、お供いたします」 「ふざけないで!!お前たちがどうしようと勝手だけど私の邪魔をしないで!!」 今までの無感情さが嘘のように激昂するアリス。 だが青年はただ言われるがまま、頭を下げ続ける。 「承知いたしました。では、いってらっしゃいませ」 「……………」 アリスは無言のままその場を後にした。 青年はアリスが視界から消えるまで頭を下げ続け、アリスが完全に見えなくなるとようやく頭を上げる。 すると、いつの間にか青年の周りには四人の男女が現れていた。 「ちっ!言いたい放題だな。むかつくぜ」 「まぁ落ち着きなさい。アリス様は焦っているのよ」 「アリスさまはおこってるの?」 「…………」 上から ボサボサの赤毛をしたボーイッシュな少女。 チャイナドレスを着た黒の長髪をした妖艶な女性。 ゴスロリ風の服装をした金のツインテールの少女。 フードを目深に被り右目に眼帯をした隻眼の少年。 「それで?本当にアリス様お一人で行かせるつもりなの?」 「まさか。お供するに決まっている」 チャイナドレスの女性が艶かしい笑みを浮かべながら執事風の青年に問う。 しかし青年は決まりきった事を口にするように言い放った。 それを聞いた女性は再び微笑を浮かべる。 「ねぇ?それ私に任せてくれない?」 「……いいだろう」 「ありがと。で?アリス様の行き先は?」 「例の街。“時雨養護施設”だ」 「そう」 そのまま女性はアリスの後を追うように去っていった。 「…………」 その後をさらに眼帯の少年が続く。 「…って、オイ!!何でオカルトまで!?」 「あたしもいきたい~」 赤毛の少女とゴスロリの少女がブーブーと文句を言うが、青年はまったく気にしていない。 「我らは留守番だ。それとプテラ」 「あん?何かよ…ってイテェ!!!」 ふいに青年がプテラと呼ばれた少女の右腕を掴むと、彼女は絶叫と共に苦痛に顔を歪めた。実はプテラはシキとの戦いの怪我を隠していたのだ。 「これくらいだいじょ…イテ!!イテ!!イテェよ!!!!」 「なら早く治療しろ。すぐにだ」 「ちりょうしろよ~」 そう言うと痛みに喚くプテラを置いて青年と少女は、サッサとその場を後にした。 「~~~~~~~~~~」 残されたのは激痛に苦しむプテラだけだった。 時刻不明 街の地下深く 街には古い都市伝説があった。 街の地下に地下鉄やライフラインとは異なる謎の空洞や道が存在する、という噂。 実際に記録にない地下道は確かに存在した。しかしその上に暮らす殆どの人間は、それを知らない。 それが特に害になるわけでもなく、謎の地下道や空洞はただ存在しているだけだからだ。 しかし… そこは誰にも知られること無く恐怖の巣窟へと変貌を遂げ、今や異形の怪物たちが蠢く魔境と化している。 そして最深部にて静かに、絶望が時を待っている。 終わりの始まりを… 『…レ…ガモト…ハ…ラ……チ………ワ…ラ…ノゾム…マコ…ノ…カイ…』 ←第1章エピローグ4「影達の会議/妹を背負い」第1章エピローグ6「オヤスミナサイ、でも眠れない」→
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エピローグ~one year later…13~ 桜も散り、初夏を告げる季節。 粥満、カーネリア大聖堂地下。 そこに、四人の者達が集まっていた。 「さて、それでは行ってくる。私が留守の間、参拝客は手順通りに対応するように」 「はいっ、わかりました!ウバルさんもお気をつけて!」 「私には何かないのかな?」 「伍代さんなら、特に気を付けなくても問題ないじゃないですか…」 粥満にある土御門本邸にて伍代との訓練を終えた祠堂統は、彼に付き合いカーネリア大聖堂にやってきていた。 カーネリア…、柳茜が邂逅したという出雲の女騎士。 彼女に興味があったわけでも信仰をしているわけでもない統にとって、この似合わない地にやってきたのは旧友がいたからに他ならない。 カーネリア大聖堂地下の奥深くへと潜っていく二人を見送ると、カーネリア大聖堂の本堂へと戻る統と行成ハナ。 「それにしても行成さんがシスターになっていたとはね」 「えへへ、似合ってるかな?一応、ウバルさんが募集してた長期依頼を請けているって体なんだけどね。私の休みの日とかは、この依頼は別のハンターさんが請けてるんだよーっ。この前は沙耶先輩が私の代わりだったみたいでねー」 会いたかったなぁ、と休みだったため、藤八沙耶のシスター姿を見られなかったのが悔やまれるハナ。 紅ギルド所属の彼女が、粥満のカーネリア大聖堂の依頼をなぜ請けているのか? それは依頼主である大神官ウバルの意向により「粥満のギルド『以外』からの応募」が強く希望されていたため、ハナやそれ以外の地方ギルドから依頼を請けたハンターが日替わりでシスターを務めているのだ。 午後4時に帰してくれるため、例えば蒼ギルド所属の人でもリニアモーターに十分間に合うような配慮がされてはいるが…毎日地方からの交通費だけでもバカにならないのに、それが週5でシスターの依頼を求めているというのだから驚きだ。 ウバル曰く、金は悪魔時代に溜め込んだ額がかなり残っているとの事らしい。 「そういや豪華絢爛って感じだったっけ」 統はウバルの居城を思い出す。 白銀の城が根城だったウバルだからこそ、金には困っていないのだろうか。 逆にラウム辺りは貧乏かもしれないと想像し、ちょっと可笑しかった。 「ラウムもこの神殿の隅っこに祀られてるんだっけ」 「そうだよーっ、戦神ラウムとして、カーネリアに同行し暴れまわった戦神(いくさがみ)だよ。彼の格好いい銅像はあちらになります」 「いや、見ないよ。白神さんじゃないんだし」 特に見たくない、とラウム念願の銅像は参拝する人があまりいないせいか、シスターとして営業モードだったハナはがっくりと肩を落とした。 そしてふと思い出したように彼女は呟いた。 「そういえば、しどーくん知ってる?凪先輩、ラウムさんの声が聞こえなくなったって」 「それ、結構前の話じゃない?少なくとも、『この世界では』気象制御装置を止めた時に消滅したって事になってるし、記憶ではその辺りから聞こえなくなったらしいし」 「うーん、よくわからないよね…。12月に聞こえなくなったって皆言ってるけど、わたし達と3月までずっと、異次元にいたわけだし…」 「深く考える必要はないんじゃない?俺達の記憶はそのままだから、俺達が納得できる辻褄なんて無いんだしさ」 うーんうーんと悩み、やがて考えすぎて目が回りそうなハナに助け舟を出す統。 そうだね、と同意しつつ、本堂の常勤のシスターに会釈をして挨拶をして回る。 シスターの数は足りているように見えるのに、わざわざハンターに依頼してまでシスターを雇う必要がどこに?と疑問を覚えながら、ハナに案内されるがままウバルの私室へ。 中は片付けられており、特にめぼしい物は無いように見える。 「ウバルさんと伍代さんが戻るまで、ここで待っててねしどーくん。あ、暇ならチェスならあるよ。やる?」 「いや、いい。そもそも行成さんできるの?」 「えへへ、実はできないの私も!ルールくらいは、ウバルさんが教えてくれたからわかるんだけどね」 一気に何もする事が無くなった二人。 ハナも他のシスターのように、戻って仕事をするよう奨めたが、ウバルが戻るまでの間、統の相手をしているようにと言われた手前か、この部屋から出ていくことはなく。 どうやって暇を潰すかを考えていると、ふと自分のズボンのポケットに写真が入っていた事を思い出した。 「あ、忘れてた。これ、卒業式の時の写真」 「あーっ!これしどーくんが撮ってくれたやつ!見ていい?」 いいよ、と言うが早く、食い入るように写真を見始めるハナ。 最初の写真は、卒業式に駆けつけてくれた天文部の先輩達とハナを一緒に撮ってあげた写真だった。 ちなみにこの写真撮影は、呪い憑きの事件でフェルゼのリムジンに乗る前に、日野守桜…この世界では姫神紅葉に押し付けられるように託されたカメラで撮影したものだ。 なのでその後、その一件で忙しくなんだかんだで同級生に会っていなかったので、写真を渡すのが今になってしまった。 「ん?天文部?卒業式後にいたっけ?」 「あ、これくれはちゃんが撮ってくれたんだよっ」 そうなんだ、と相槌を打ちながら、よく見る。 すると卒業式後ではなく、式前の朝の写真だ。太陽の位置が東にある。 天文部の人達も、彼女の卒業を祝うために集まったのだろうと思うと、色々と凄いという感情しか沸いてこない。 その中に、天文部の先輩の沙耶や入生田宵丞の姿も見える。 やはり凄いなという感情が沸いてくる。文科系というより体育会系に近いんじゃないか、と薄く思いながら。 「あれ?この写真しどーくん写ってるよ」 「あ、ホントだ。伍代さん勝手に撮ったな…」 次の写真は、伍代と統が組手をしている写真だった。 鉄線を交えた組手という事もあり、躍動感があってハナには高評価だったが、メイド辺りが伍代から頼まれ勝手に撮ったのだろう。 他にも様々な写真があったが、割愛。 最後の一枚は、紅葉の要望により撮影した写真だ。 「これ、しどーくんが撮ってくれたやつっ!卒業おめでとう、わたし達ーっ!って場面の!」 「三人だけで撮りたいって時の」 思い出すように写真を見る。 そこには笑っている福良練と紅葉、そして彼女らに抱き着くハナの姿が写っていた。 よく見ると、昔より彼女の髪が伸びている事に気が付いた。 「髪、伸ばしてるんだ?やっぱり卒業したから大人っぽく見えるから?」 「そうだよーっ、理由はないしょっ」 自分の髪を指先で弄りつつ、大切そうにその写真を見て微笑むハナを見て、統は息を吐いて笑うと「全部あげるよ」とカメラごとハナへと渡す。 いいの?という表情の彼女に、いいよと笑って。 最後に自分と伍代の組手の写真だけは、抜きとる事を忘れずに――。 ☆ 薄暗いカーネリア大聖堂の地下深く。 伍代とウバルは、鉄線や魔力の刃を用い、魔物を排除しつつ奥深くへと進んでいった。 会話は伍代から声をかける程度で、ウバルは特に会話をしようとはしない。 元々、親しい間柄ではない上、あまり伍代に好意を持っていないウバル。 やれやれ、と言うようにため息をつくと、伍代は近くの腰掛ける事が可能な段差に座り込む。 「少し休憩をしたらどうかな?悪魔ではなく、人の身で戦い詰めは厳しいだろう?」 「余裕そうな貴様に言われるのは面白くはないが…そうだな、想像以上に、以前とは体の使い勝手も違う」 ウバルも同様に、伍代とは離れた段差に腰かけた。 アンデットが多いこの地下迷宮。 伍代は辺りを見渡すと、こんな所があるのは初めて知ったと前置きをして。 「やはり、世界改編の影響によるのだろうか?」 「おそらくは。そしてここのアンデットは、少し特殊だ」 そう、伍代がいくら核を狙って攻撃しても、倒れない。 ダメージを与える事はできても、トドメはさせないのだ。 そのため伍代が無力化し、ウバルがトドメを刺すという方法でここまで進んできた。 およそ倒したアンデットは500体近く。 「ウバルの閃剣でのみ通用するアンデット…って所かな?」 「違う。おそらくは、この聖堂の加護を受けた者で無ければトドメを刺せないのだろう」 「聖堂の加護?」 話を聞けば、この世界でのカーネリア大聖堂の役割は、以前の世界の内容に加えてもう一つ。 それは、地下迷宮のこのアンデットを封じ込めるという役割だ。 「ウバルの居城へと導かれる空間が消滅したと思えば、まさかこんな大迷宮が広がっているとは」 「この地下深くに何があるのか、それは私にもわからない。それ故に、この大迷宮の調査・アンデットの殲滅を行わねばならないのだ」 「だがウバルの言葉で言うなら、聖堂の加護が無ければ倒せないアンデット…。探索は困難を極めそうだね」 同意するように頷くウバル。 一体どれくらい深く潜っただろうか、と腕時計を確認すると、もうすぐ16時になる。 時間だな、と小さく呟き立ち上がる。 「今日はこの辺にしておこう。依頼時間はきっちり守らねばな」 「やれやれ…人間になってもそういう部分は律儀だな」 伍代も立ち上がり、二人は来た道を引き返し始めた。 戻る途中は、先程の会話が切っ掛けになったか、ぽつらぽつらと会話がされるようになる。 「大聖堂の加護、という事は…ハンターをシスターとして雇っている理由、だね?」 「その通り。その中で、行成ハナはそろそろこの聖堂の空気に多く触れ、充分に潜れると判断したから、貴様と潜る時に同行させたのだ。今までは黙って一人で潜っていたからな」 「しかし、彼女はあまりこういった依頼を好まないだろう?」 「…それでも、行成ハナを通じ他のハンターへと、この依頼が広く浸透することを望んでいる」 成る程、と感心しつつウバルと話をしながら、足は止めない伍代。 おそらく大聖堂の加護というものは、よくわからないが一朝一夕には身につかないのだろう。 長期的計画として、粥満ギルド以外のハンターの協力も欲しい。 そのため大聖堂の加護を受けた、幅広いハンターの協力が必要なため、粥満以外のハンターを希望していたというわけだ。 「…しかし、それならば粥満のハンターでもいいのでは?」 「既に一部のハンターには協力をしてもらっている。桐石登也をはじめとして、ギルド員ではあるが、戦闘力がある諏訪戒人等といった者達のな」 「…桐石君はともかく、諏訪さんがカーネリア大聖堂に通っているとは驚きだな」 「あの男には、私が人間になり弱体化したため、剣術の特訓に付き合ってもらっている。あの男の独特な剣術は、大和では他に類を見ないからだ」 此処で言う粥満のハンターでも、というのは彼らだけではない。 それ以外にも沢山のハンターがいるはずなのだが、人付き合いが相変わらず悪く、心を簡単に開かないウバルに苦笑を見せる伍代。 彼にとってのこの地下へ潜るための仲間の条件とは、「カーネリア大聖堂の加護を受けた存在」だけではなく「異次元で共に苦難を乗り越えた存在」なのだ。 彼の人付き合いの悪さには呆れで苦笑しか出てこない。 要は、他のウバルを知らない者とはこの地下に潜るつもりはないため、ギルド広域に依頼を出しているのだろう。 粥満ギルドで、異次元で共に戦ったハンターはあまりいない。 それこそ、伍代でもすぐに思いつくのは、移籍をしていない登也くらいか。 そこに拘らなければ、粥満のハンターだけで事足りる事態なのだ。 「そういう貴様こそどうなのだ?」 「私?」 「祠堂統の事だ。師弟の関係は構わないが…フェルゼ嬢のように、政界に絡ませる事だけは辞めておいた方がいいだろう」 「ああ、その事か。もちろんそのつもりだよ。彼に宮廷は向いていない。これでも、祠堂君には普通に彼が決めた道を歩いてほしいと願っている者の一人だからね、私は」 違う考えをしていたためか、伍代は一瞬驚いた表情を見せたが、話の内容を理解して余裕の笑みを見せた。 だといいがな、と余り信用を見せないウバルの表情。 嫌われたものだと冗談めかして笑うと、当然と言わんばかりに鋭く睨まれる。 「地影景勝。おそらく、あの男はそれに興味を示している。ならば、『よく知る貴様が』教えてやるべきだろう」 意外というように可笑しそうに伍代は笑うと、「それは違う」とウバルの言葉を一蹴した。 「私はそこまで詳しくはないよ。それに、歴史という物は本人の眼で見た事こそ価値がある。祠堂君の大学部で歴史科を専攻していたり、蒼ギルド所属を選んだり。 彼の探求心で調べた物や、行動こそ彼が知りたい事への一歩なのだ。私が知っていう事が、正しいという保証もないしね」 「全く…祠堂統も大変だな」 その後は一切会話もなく、二人は黙々と地上へ向けて歩みを早めた――。 ☆ 「お帰りなさいっ」 「ただいま、ハナ君。祠堂君といい子にしていたかな?」 軽口を交えつつ、地下迷宮から帰還した二人。 とりあえず今日の探索は何も分からなかった事を伝えると、ハナが不思議そうに地下迷宮の方を眺める。 「ほんと、不思議な場所ですよね…。今日までこんな所があるなんて知りませんでしたしっ」 「教えていないから、当然だ。施錠もしっかりとしてある」 「よかったら、潜ってみたらどうだい?ウバルも戦闘に備えて、瞳術を教えてくれるかもしれないよ?」 「…言っておくが悪魔の力を失った今の私に、剣術以外の力はもう残ってはいないぞ」 余計な事を、とウバルが鋭く伍代に睨みを利かせた。 伍代は笑って誤魔化すと統へと振り返る。 「さて、そろそろいい時間だ。祠堂君、今日は蒼に用事があるため、送ってあげよう。君の母さんも心配しているだろうしね」 「…じゃあお願いします」 「行成ハナもそろそろ帰るといいだろう。いくら紅と粥満間のリニアが定期的にあると言っても、次は5時過ぎだ」 「大丈夫ですよっ、今日はおじーちゃんの所に泊まる予定なんです!」 「国木田先生によろしく言っておいてくれたまえ」 それではこれで、とどさくさに紛れて最後にハナの祖父への挨拶をすると、伍代は統と共に大聖堂から出て行った。 ウバルの表情の堅さに気が付いたハナは、彼にどうしたのかを聞くが。 「いや、大したことではない。彼女がどういう道を選ぶかは、彼女次第なのだから」 「?」 早く帰れ、というように背を向け本堂へと歩き出すウバルに、今日もお世話になりましたーっと深々と頭を下げる。 そしてタクシーをつかまえ、粥満郊外にある国木田明夫宅へと向かうのだった――。 ◆行成ハナ 異次元帰還後、日常へと戻り無事学園を卒業する。 卒業後は紅ギルドに所属し、日常的な依頼を中心に受けるハンターを目指して日々奮闘中。 異次元の中での生活で英カリンとも親交があり、飛鳥から遊びに来た彼女と遊んだり、ペンフレンドとして交流を続けているようだ。 祖父であり瞳術の師である国木田明夫から、ハンターの事も含めた様々な技術を学ぶも、ハンターを辞める日まで攻撃魔術を持つことは無かったという。 最近の悩みは、紅ギルド長の侯心宿の呼び方。 ◆祠堂統 異次元帰還後、土御門流に正式に門下入りをする。 卒業後は土御門流を学ぶ事を続けつつ、進学の道を選ぶ。 進学と同時に蒼ギルドに所属し、毎日数時間かけて神風学園大学部へと通う。 学科は文学部の歴史科専攻で、将来は曾祖父の跡目を継ぐと同時に、ルーツである地影景勝の事を知るため。 文献が殆ど残っていないため、学科での調査だけでは分からないのが現状の悩み。 ◆悪魔ウバル 異次元帰還後、彼は悪魔ではなく人間として生きる事を決意し人間へと変化した。 カーネリア大聖堂の大神官となり、人々を導きつつ戦神ラウムも仕方なく祀る。 悪魔の力の象徴だった瞳術は無くなったが、その剣術の鋭さは健在で、東十常家が扱う閃剣を使いこなす。 よくチェスを挑みに来る桐石登也や、海外から帰還した時に必ず寄る志島武生とも親交があるが、その辺を語る事はまずない。 現在はカーネリア大聖堂の地下に広がる謎の大迷宮の調査を進めている。 ◆悪魔ラウム 異次元帰還後、彼は悪魔のまま生きる事を決意。 したのだが、なぜか紆余曲折あり戦神として祀られることになった。 既に彼の声は誰にも聞こえず、やがて数百年後に悪魔の力を完全に失い、彼は消滅することになる。 しかし、その日まで白神凪をはじめとした、人間を優しく見守っているだろう。 ◆土御門伍代 異次元帰還後、宮廷魔術師から宮廷員と変化していたのは、土御門正宗がこの世界で健在のため。 そのため画策し正宗を合法的に引退へと追い込み、自身が宮廷魔術師へと返り咲く。 イーストセントラルタワーの件で、権威が弱まった東十常家に代わり、姫神桜(フェルゼ)を従え貴族派筆頭として台頭する。 貴族派の権威拡大、また神崎派に対抗するため、月城家の政界復帰を目論む。
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エピローグ~one year later…15~ 日差しも強くなってきた季節。 豪華客船エルスール号特別客室。 此処はVIPの客が宿泊する場所で、蒼氷カノンはそこにいた。 飛鳥軍臨時外交官として。 「おや?どうしました蒼氷外交官。この船はお気に召しませんかな?」 「アセド外交官…。いえ、エスタルド領に入るのは初めてのものでして…緊張、しているだけです」 「ハッハッハ、どうか寛いでください。飛鳥帝国、メロウの港を出港し3日。後2日は到着にかかるのですからな」 旅客船での片道が5日。 その長旅の先に、西大陸南部のエスタルドと呼ばれる、小さな島国がある。 現飛鳥帝国皇帝、ヒース=べルジェラックの2代前の皇帝の時に、隣国の脅威により同盟国である飛鳥国へ支援を頼んできた国だ。 その後エスタルドの隣国を飛鳥軍が追いやった後に、飛鳥軍が和親条約を結ばせ、永久的な保護と理不尽なくらい高額な関税を先代の皇帝の代まで行ってきたのだ。 『蒼氷大尉、貴殿はこれより臨時外交官としてエスタルドに赴いてもらいたい』 謁見の間。 その場で、皇帝ヒースの立ち合いの下、飛鳥宰相により告げられた任務。 『3つの任務を与える。1つ、近年エスタルド軍が大規模な徴兵を行っている。 愚かにもこの飛鳥帝国へ攻め入ろうという噂があるのだ。貴殿にはその真偽を確かめてもらう。』 エスタルド軍といえば、西大陸の軍人でもかなりの練度で有名な軍だ。 西大陸と言えば、大和でいうハンターのように傭兵が主流であるが、エスタルド国は傭兵参加を認めていない。 それどころか、一人のエスタルド兵が傭兵の高ランクをも討ち取るほどの実力者揃いだ。 飛鳥の軍人はその更に上をいくが、それでもそんな者達が飛鳥に攻め入るという不穏な情報があれば…その真偽は確かめねばならないだろう。 「蒼氷外交官」 「はい…?」 ふと考え込んでいると、アセド外交官が鋭い目つきでカノンを見る。 すぐに笑みへと変え、話を続けた。 「お疲れならば、お休みになってください。なんなら、後で酔い覚ましを持ってきましょう」 「いえ、お気になさらず。ですが、そうですね…少し、休ませてもらい、ます」 「ええ、その方がいいでしょう。それでは、ごゆっくりお寛ぎください」 アセド外交官は一礼すると、特別客室から出て行った。 アセド外交官。外交官と言っても、カノンと同じように軍部出身で、外交官に相応しくない体格の屈強な男だ。 エルスール号へと乗船し3日。 未だ、アセド外交官が読めない。 「鍛錬不足、ですね…」 ため息をつき、窓の外を見る。 月が陰り、薄暗くなっていく。 雲の動きが早い。嵐が来るのかもしれない。 この辺りの海域は、突如暴風雨が吹いてくるため、難破する船も少なくない。 その嵐をティフォーンとエスタルドの漁師は呼んでいるようだ。 『2つ目の任務。それは、行方不明の白鷲外交官の調査だ』 『確か、エスタルドの飛鳥大使館の…』 『うむ。彼がここ1ヶ月程、連絡を絶っている。エスタルド側に問い合わせると、調査中との反応しか寄越さない。 そこで、現地に赴いた時に安否を確認してきてほしい。 1つ目の任務が事実であるのならば…既に、白鷲外交官は生きてはいないだろう』 白鷲外交官。 前任の宰相の下で政治学を学び、先代の飛鳥皇帝にも重宝されていた外交官だ。 マメな性格で、月1どころか2週に1度報告を行うほど、連絡を欠かさない。 その彼の最後の通信が先月。 それも、エスタルドが軍事拡張を行っているという情報が最後らしい。 その後2回、一般客と共に飛鳥の軍部関係者を向かわせたが、2回ともティフォーンにより難破。 その軍部関係者の安否も分かっていない。 だからこそ、今回は臨時外交官として堂々と、豪華客船へと乗船手続きを行った。 このエルスール号は飛鳥~エスタルド間を繋ぐ船で、非常用のアイテムも多数揃っている。 もちろん、飛鳥軍が使用している、水中で息ができるアイテムも備えてある。 回想を終え、カノンはベッドへと横になった。 此処にはカノンのみ。 カノンの仲間は、一般客室での乗船手続きとなっている。 「そろそろ、出てきたらどうですか?」 なので、今は仲間がこの部屋にはいない。 暗殺を行うには絶好のチャンスなのだ。 いつの間にか部屋に侵入を許したのは、鍛錬不足としか言いようがなかったが、カノンは気持ちを切り替え近くに置いてあった槍を手にする。 「フ…どうやら勘はいいようだ」 おそらく最初から気配を殺して潜んでいたのだろう。 黒いローブに頭まで包まれた者が、カノンの目の前に姿を現した。 外国語で独特の口調ではあるが、口調からして、カノンと同じくらいの若い男だろうか。 殺気こそないが、二本の曲刀を構えたローブの男。 エスタルドの軍人が使う、剣術の一種だ。 カノンは外国語に切り替えながら、相手へと尋ねた。 「一体、何者です…?」 「エスタルド軍機密部隊、トルナード二等兵だ。天瀬麻衣…貴様にはここで死んでもらう」 丁寧に名乗った暗殺者にずっこけそうになりながらも、槍を強く構えたカノン。 構えから腕は立つのはわかるが、どうやらおっちょこちょいな暗殺者のようだ。 しかし、訂正すれば麻衣に危険が及ぶのは必至。 ならば、ここで何とか対処する必要があるだろう。 「ふむ…魔術のみ…と聞いていたが、どうやら古い情報だったようだ。しかし…」 「!?」 カノンに切りかかるトルナ―ド。 彼はカノンが槍で刃を防ぐと、そのまま曲芸師のようにつばぜり合いをしたまま宙返りし、彼女の背後に回り込んだ。 「お前が勝てない理由が2つある。その1、ここでは広範囲魔術は使えない。もし発動し船に穴でも空ければ、こんな大海原のど真ん中で他の乗客への迷惑になるからだ」 「くっ」 相変わらず人物を間違っているようだが、カノンも広範囲魔術が多い。 かと言って狭い客室の中では、簡単な魔術でもカノンの魔術の威力なら簡単に船底に穴が空くだろう。 ターゲットロックして、トルナード以外に当たらないようにしようにも、彼の動きがトリッキーすぎて魔力を合わせる事ができない。 「その2、10分間は我が仲間がお前の仲間を足止めしているだろう。つまり、10分以内にお前は死ぬ」 「だったら残念、そのお仲間は1分で倒しちゃったんだなこれが!ブラックドッグ!」 銃弾がローブを貫く。 足と腕、急所は外した。 桐石登也が特別客室の扉を蹴り開けて、カノンの援護射撃を行ったのだ。 「成る程、評価を改めなくてはならないようだな!」 ローブの中へと曲刀を腕と足に回し、銃弾を防いだトルナード。 その後ズバッとローブを切り裂き、ローブの下も黒尽くめのラフな格好を晒した。 「さすが、ただの暗殺者じゃないな…!」 「当たり前だ。エスタルド軍機密部隊は任務遂行のために血反吐を吐いて日々訓練を積み、他国に遅れを取らぬよう精進している。その程度の攻撃で倒れる程――」 「ありがとう、ございます、登也さん」 突如動かなくなった体に驚愕の様子を見せる男。 見ると手足が凍りついて動かなくなっている。 部屋全体の気温が急激に低下している事に気が付いた。 カノンが魔術で、辺りを自分の意のままに凍結させる結界を展開したのだ。 「ふむ…地味だがこの上ない一手だ。さすが結界使いなだけはある」 「それはどうも。四肢を完全に、使い物にされたくなければ、降伏してください」 「チェックメイト、だ」 大気の氷を操るべく、手のひらをトルナードに向けるカノン。 それを見て銃口を向け、自分がよくチェスを行う、一度だけ引き分けに持ち込めただけで後は全く勝てず、その時と同じような台詞で煽る登也。 男はため息をついた後、両手を挙げた。 「まあ…やはり使わなくてはならないか」 「…何を?」 「…!カノン、構わねぇ!死なないように全身凍らせろ!」 登也が何かに気付いたように叫ぶが、男は薄く笑う。 そして、右肩の服が浮き出てきた赤く光る痣により破かれた。 登也はこれを良く知っている。 なぜなら、彼やカノンと共に同行している人物が持つ『聖痕』と呼ばれる痣と同じ痣だったからだ。 「もう遅い。アンタッチャブル解――」 そう叫ぼうとした時、船体が大きく揺れ90度傾いた。 聖痕を解放しようとした男は、そのままバランスを崩して壁に激突する。 「なんだ…!?」 「登也、さん…!」 カノンが指さす外の先を見ると、船体の外に大きな渦潮が現れている。 その渦潮は竜巻を発生させ、エルスール号を引き寄せているかのようだった。 「ティフォーン…い、いやあれは――」 男、トルナードがそう呟いたのが、この船の最後だった――。 ◆蒼氷カノン 異次元帰還後、様々な任務をこなし半年で大尉に上り詰める。 そして今回の重要な任務を託されたが、この事件で5ヶ月の間、消息不明となる。 その後無事に帰国した時は、エスタルドの情勢も彼女達の手で解決し、その功績を認められ少佐にまで昇格したと言う。 飛鳥支部へと移籍した桐石登也とは婚約を交わしている間柄で、叔父である蒼氷リオンの家で登也と共に同棲中。 ☆ 暗闇の中、二人の男女が蝋燭を灯し、一つのテーブルと二つの椅子にそれぞれ腰かけている。 『貴方はもうこの世界にいない』 『ならば、こんな世界壊してしまおう』 『―――のために。来世でまた一緒になるために』 ☆ 薄っすらと目を開けると、そこには天瀬麻衣の先輩、烏月揚羽が心配そうに麻衣の顔を覗き込んでいた。 「マイティ、すごいうなされてたよ?大丈夫!?」 「…平気です、先輩…水貰っても良いです…?」 「あっ、まだ船酔いしてんだ!?ごめんごめん、今もってくるねー!」 水をちょうど切らしていたため、慌てて厨房へと走る揚羽。 その姿に僅かに笑み、疲れた溜息をついて再度目を閉じる。 「一口飲んだやつでよければ…飲む?」 「…ええよ、こうしてると少し楽になってきたし。志島は酔わないん?」 「まあ、船旅は慣れてるんで」 自分が飲んでいた水を差し出そうとしたが、断られたため引っ込める志島武生。 そして行ってしまった揚羽が出て行った開けっ放しの扉をじっと見て、立ち上がり閉める。 少しの間、沈黙が流れ。 「そういえば、天瀬さんは聖痕の事で今回の依頼を受けたんでしょ?」 沈黙を破ろうとしたのか、それとも興味があったが聞き出す機会が無かったのか。 武生がそう尋ねると、麻衣は上体を起こし、きょとんとして。 「そうやけど…その口ぶりだと、志島は違うん?」 「…まあ」 「…そう。言いづらいなら言わなくてもええよ」 「いや、そんな訳じゃないけど。エスタルドを含めた西大陸の南側8ヶ国に、まだ一度も行ってなかったから。FMXって、西大陸の中でも南の国が一番盛んだからさ」 へえ、と相槌を打ちつつ、乗船時に武生は自分のバイクを積み荷としていた事を思い出す麻衣。 暫し沈黙の後に、付け足すように武生が話を続ける。 「まあ、南部が一番戦争が少ないからっていうのもあるけど。エスタルドはFMX自体流行ってないらしいから、布教も兼ねて、かな」 「ちゃんと下調べしてるん?偉いね」 「そんな事ないよ。…それに、水鏡さんらしき人の目撃情報もあったから」 最後の言葉に、麻衣は少し驚いた顔をして見せたが、そっか、と優しく笑い。 行方不明で死亡説も流れてた水鏡流星。 その彼を見かけたというのが事実なら…最近色々といい噂を聞かないというエスタルドに、何の用だったのか。 そもそも、エスタルドに用があったのか。 「天瀬さん?」 「ん、何でもないよ」 「マイティ!水、持ってきたよ!!」 勢いよく扉を開け、水を持ってきた揚羽が客室へと入る。 どうも、と水を受け取ると、このまま飲まないのも悪いと思い、麻衣は一口水を飲んだ。 此処は5人一間の客室で、麻衣、登也ともう一人、今回のカノンの任務にハンターとして護衛依頼で同行している。 特殊な事情としては、揚羽と武生か。 揚羽は麻衣に頼まれて。 武生はハンターを既に辞めていたが、先日偶々大和のカーネリア大聖堂で登也と会った時に、声を掛けられたのだ。 ハンターを辞めているため既に武器は解体し、魔術ももし使用した事が発覚したら、ギルドに違反扱いを受けるだろう。 そのため断ろうとしたが、FMXや行方不明の水鏡の事もあったため、結局引き受けてしまった。 そんな異色な組み合わせではあるが、過去にハンターを行っていた者や現在進行形でハンターの者を乗せた船が港を出港し、既に三日目。 海を見るのも飽きてきたところで、麻衣は船酔いしてしまった。 気を紛らわそうと会話を続けようとして、揚羽に声をかける。 「それにしても先輩、よく同行できましたね。今手配されてるんやとてっきり…」 「されてるよ?」 「…ああ、だから出港の時にコソコソとしてはったんですね…」 「…今回は軍人に話いってたと思うし、スルーされてそう」 武生の指摘通り、今回は揚羽は見逃されている。 もちろん、揚羽自身もその事はよくわかっていた。 だからこそ出港時の見送りも、こっそりと久遠が来ていたくらいで、飛鳥では悪い意味で有名人である契や祈那は顔を出すことができなかったのだ。 ともあれ、その二人の伝言も久遠からきっちりと聞いていたのが救いだったが。 「さっすがカタメ!いい王様だよねー!」 「でも、蒼氷さんは任務だしわかるよ。俺達も依頼で関係者繋がりでわかるんだけど…天瀬さんだけなんで確実に頭数に入ってたの?」 「…それはうちが聞きたい。…まあ、これなんやと思うけど」 麻衣は、自身の聖痕のある位置を指さした。 それはそうだけど、と先ほども理由を聞いた武生は更に尋ねて。 「なんで天瀬さんなのかってこと。そんなに聖痕に関係するような、物騒な依頼なの?」 「だからアタシ達が聞きたいんだってっ!ね、マイティ?」 「うちに振らんでください」 そうしたやり取りを続けていると、客室の扉が再度開いた。 5人目の彼らハンターのサポートを行うべく、大和粥満から出張してきた諏訪戒人だ。 「天瀬麻衣、起きていても大丈夫なのか?」 「お蔭さまで。ご迷惑おかけしました」 「フ、迷惑など掛かっていないさ。まだ二日はかかる。ゆっくり休んでいるといいだろう」 それだけ言うと、戒人は踵を返してまた部屋から出て行こうとする。 見回りを買って出てくれているが、さすがに何度も部屋を出入りされても落ち着かない。 なので麻衣が呼び止めると、彼は一つ息をついた。 「お前達はここに居ろ」 「あ、ちょっと待ってよっ!」 揚羽が戒人の後を追おうとしたが、麻衣に呼び止められて躊躇した後、自分の席へと座った。 あくまで今回の目的は、蒼氷カノンの護衛と天瀬麻衣の護衛。 もっとも既にハンターではない彼女には受ける必要のない依頼だが、可愛い後輩の頼みであり祈那や久遠、契の承諾を得ているため、麻衣の側にいる事が彼女の使命でもある。 「ま、あの人なら問題ないんじゃない?Aクラスハンター並みの実力はあるんでしょ?」 「それはそうなんだけどさー…」 武生の言葉に、尚も納得がいかない様子の揚羽だったが、それは突然の大きな揺れによりすぐに忘れる事となる。 辺りが突如揺れかと思えば、この船、エルスール号が傾いていた。 「な、な、なにっ!?地震!?」 「違う、なんだあれ…?」 外の景色を見ると、渦潮の中心に巨大な竜巻が発生している。 その中に、黒く大きな影が見えた。 「あ、く、ま」 麻衣が呟いた瞬間、彼女の聖痕が赤く光り疼き出す。 今までにないような痛みが走り、揚羽や武生が彼女に声をかけているが、その声は遠く。 なぜか、麻衣はカノンにこれだけ教えられた、3つ目の任務を思い出していた。 彼女がそれこそ諏訪戒人に天瀬麻衣指定の依頼だと告げられ、受けた依頼の内容とも被る。 『蒼氷カノン。最後の任務は余が直接伝える。他の者は鳳中佐以外下がるがよい』 ヒースがそう告げると、カノンと鳳中佐だけがその場に残った。 『…貴様に与える3つ目の任務。それは――』 『3体の強力な悪魔の一柱、『永久のルーファス』の調査、だ。大和のハンター、天瀬麻衣を連れ任務に臨むがよい。ハンターギルドには既に話は通してある』 その悪魔は、聖なる痣を付け、自分の眷属を増やしていくと。 そしてそのまま、天瀬麻衣の意識は闇に途切れた――。 ◆諏訪戒人 異次元帰還後、いつも通り粥満のギルド員の役割に戻る。 しかし、今回の一件により飛鳥ギルド側の要請もあり天瀬麻衣に同行、そのまま彼女や蒼氷カノンらと共に5ヶ月の消息が不明となる。 ◆派手な男 異次元帰還後、稀にバウンティハンターとして飛鳥で活動している所を目撃されている。 ☆ 時間は戻る。 パチパチと火花の散る音で目が醒めた天瀬麻衣は、辺りの状況を確認した。 焚き火がされており、諏訪戒人が麻衣の傍にいる。 「気が付いたか、天瀬麻衣」 「…ここは…?」 「分からない。ただ、どこかに漂着したようだ」 少し山々に囲まれた山道らしき道の外れに、焚き火をしている二人。 他に人の気配は無く、どうやら戒人と二人きりらしい。 「…烏月揚羽と蒼氷カノンは、先行している。他の漂流した者達を連れてな。どうやらここから先、暫く行くと集落があるらしい」 「先輩達は無事やったんですね…。集落?」 言われて麻衣が遠くを見ると、明かりがついている町のようなものを見つけた。 「他の漂流者だけでなく、意識がないお前を連れて行くのは困難と判断した。 だからあの者達には先行してもらい、俺はお前だけを護衛させてもらうことにしたぞ」 「そう、ですか。ありがとうございます」 「礼には及ばないさ。…今日はここで野営する。構わないか?」 う、と一瞬たじろぐが、他にどうしようもないし戒人の提案を受け入れた。 幸い、戒人がほぼ見張りをしてくれるという事なので、1時間だけ途中で交代し、残りは夢の世界へと入って行った――。
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エピローグ~one year later…14~ 紅ギルド本部。 此処では三人のハンターが、する事も無くて暇を持て余していた。 「雨ですねぇ…」 「これからどんどん強くなるみたいです…。粥満のはーちゃん、大丈夫かなぁ…」 「確かに心配ですね。なんでも過去最大の台風だとか」 藤八沙耶、福良練、姫神紅葉(旧日野守桜)の三人は、ギルドの待合室でお菓子を食べながら外を眺めている。 見れど見れども雨は止まず、どころか徐々に強くなっていくようだ。 夏が近づいた今日この頃、色々な事件はあれど、自然災害は久しぶりだ。 しかもテレビでは、過去最大の勢力の台風と噂されている。 そのため依頼はあれど、優先度の低い依頼は紅ギルドの判断で、本日は中止になっている。 ちなみに沙耶は街中の外灯点検、練はベビーシッター、紅葉はむいむいの掃討だったが、全部中止だ。 「戻りましたー…って、三人揃って何やってるんだ?」 「あ!お帰りなさいしののの先輩っ」 「何もしていないのですー」 「びしょ濡れじゃないですか…今タオルお持ちしますね」 そこへ東雲直が依頼を終えて戻ってきた。 郵便局の依頼で、配達の協力の依頼だ。 台風という事もあり、今日は意外な所からの依頼も多い。 「サンキュ、日野守…じゃなかった姫神」 「どういたしまして。それにしても傘はもっていかなかったのですか?」 「いや、持ってったんだけどさ」 これ、とべきべきに折れた傘を見せる。 うわぁ、という声が広がり、今回の台風の雨風の強さを思わせるだろう。 「こんな酷い台風、初めてですね…」 「あ、フェルゼちゃんが言ってたんですけど、気象制御装置が無くなった影響もあるんじゃないかって…」 「え、そしたらこれって、俺達があの装置を止めちゃったからって事?」 濡れた髪をタオルで拭きつつ、直が練に尋ねる。 余り詳しく聞いてなかったのか、それは…と少し困っていた所に、思わぬ助け舟が出される。 「そうとも言えるし、そうとは言えねえぞ。遥か昔、気象制御装置が無いころの大和もこんなもんだったらしいし。まぁ気象制御装置のお蔭で安定したってわけだがな」 「佐治せんせー、タオルいる?」 「おう、くれ」 佐治宗一郎は、傘を畳む様子の義貴つつじと共に紅ギルドにやってくる。 慣れた様子で、給湯室から乾いたタオルを持ってきたつつじは「どーぞ」と佐治に渡した。 どうやら傘に二人で入って来たようで、佐治のデカい図体は入りきらず肩の辺りがびしょ濡れだ。 ちなみに傘はそれなりの形を保っている為、直のコンビニで買った傘よりは高級品なのだろう。 「いやあ濡れた濡れた。おう、侯はいるか?」 「いえ、侯ギルド長は外出中で、私達3人でお留守番をしていたのですよ」 「ああ、もう招集されたんか。だったらいい、とりあえず支部長は本部長の指示待ちで待機しときますかね」 「やっぱり台風ですか?」 指示待ち、という言葉に引っかかった練は、小首を傾げながら聞くと頷く。 紅の地図を取り出すと、大きめのテーブルの上に置く佐治。 「3カ所、赤くマーキングしてあるべ?そこの川が氾濫しそうだから、紅ギルド長にギルドメンバー借りようと思ってな。それと報告だ。学園近くの川以外は、紅ギルドの管轄だしよ」 「ちなみに、今日は学園は休校で生徒は休みやよ」 「だから人手が足りなくて、紅ギルドに来た…って事ですね」 「さすが東雲、呑みこみが早くて助かるわ」 そう言いつつ、ひいふうみい…と今この場にいるメンバーを数える佐治。 頭数に数えられている事に気づき、紅葉がいち早く佐治へと尋ねた。 「具体的にどのような対処を行うのですか?」 「土のうを積む…のは地元の消防団達がやってっから、とりあえず救助がメインになるわ。消防団の連中でも何とかできない水の流れを変えたり、二次災害が起きないように土砂等の撤去とかだな」 「…時間かかりそうな仕事になりそうですね…」 そこで呟いたのは、直だった。 時間を気にしているようで、どうしようか迷っているようだった。 彼の妻、旧姓一任梨都の出産が近いのだ。 既に近所の病院に既に入院しており、予定日も後数日だ。 「ああ、東雲は一任の病院行くのか。ご苦労さん、行っていいぞ」 「え、いいんですか?」 「何とかなるだろ。それにてめぇ、明日から依頼入れてねえだろ?ついててやんな」 「すみません、それじゃお先に!」 深く頭を下げると、直はつつじから渡された傘を受け取り、病院へ向けて駆けていく。 それを見ながら、佐治はため息をついた。 「近場っつっても落ち着かねえもんなんだなあ…俺様もそうだったわ」 「だからですか?佐治長先生、いつもより優しい感じがします」 「バーロー、俺様はいつでも優しいいいギルド長だっつの!」 直を見送ると笑って、ソファーへと腰掛ける佐治。 適当に缶コーヒーを(つつじに)買ってきてもらうと、ブルタブを開けて飲む。 すっかりくつろぎモードだ。 とりあえず人数集まるか侯が戻るまで待機、との命令通り、全員紅ギルドで待機していた。 「そういえば、藤八。エストレアと会ってきたんだろ?なんつってた?」 「禅次郎先輩と行ってきた時の事です?」 「それ以外に何があるんだよ…もしかして何回も行ってんの?」 「いえ、一度だけですよー」 じゃあ最初からそれ言えや!と怒声を放つ佐治の大声に、全員耳を抑えつつ沙耶は語り始める。 ☆ 一ヶ月程前だっただろうか。 沙耶は甚目寺禅次郎と共に、エストレアのいるユグドラシルの大樹へと訪れていた。 禅次郎がエストレアに呼ばれて紅に来た時に、沙耶も連れて異次元にあるユグドラシルの大樹へと一緒に向かったのだ。 ―来たか― 「お久しぶりです、エストレア」 「お久しぶりです」 禅次郎の隣で、同じようにエストレアに挨拶をする沙耶。 目の前には、一つ目の竜が大樹の側で寛いでいた。 そして、その周りには今となっては失われた、エストレアの眷属の6体が。 ―今日呼んだのは他でもない、最後のお別れを言うためだ― 「え?最後、ですか?」 「い、いきなりですね…」 一呼吸置き、エストレアは瞳を閉じた。 そして、ぽつぽつと語り始める。 ―既に悪魔の残党しかいなくなったこの地で、私が手を貸す事ももう既にあるまい― ―ならば、アドラメレクの言うように、後は人の手に任せる。私は、再びこの大陸に悪魔の脅威が訪れた時、目覚めるとしよう― ―何百年、何千年、もしくはその時は来ずに未来永劫、この異次元の大樹にいるかもしれんがな― 「…寂しくないんですか?」 ―心配はいらん。お前達が悪魔を潰すために尽力している限り、私はいい夢が見れるのだから― 「とことん悪魔嫌いなのですね…」 ―それは当然、そのために造られたのが私だ― そうですか、と二人はエストレアに返す。 突然の事で言葉が見つからなかったが、それを見越したのか転移するように、6体の者達がやってきた。 巨大な黒衣の骸骨、D189。 銀獅子、ネメア。 金色の巨鯨、ゴルディアス。 炎の狼、ラー。 風の属性の巨大ゴーレム、風神魔鋼兵。 そして人型のカエル、自来也。 「既ニ我ラモ悪魔ト共ニ、コノ世ニハ必要無キ存在」 「エストレア様が眠るならば、我らも同じように眠りにつくことになる」 「長き長き、夢の中へ」 「宿主に挨拶できないのは、ちと寂しくはあるがな」 「シカシ、既ニ時間モナイ」 「そう考えると、俺だけ宿主に会えたのは幸福なのかもしれないな」 6体の召喚者達の中で、自来也が禅次郎の前に来る。 そして、握手を求め手を差し出してきた。 禅次郎は迷わず、その手を握りしめる。 「お疲れさんだったな、善次郎」 「自来也も…あまり使ってあげられなくて、すみません」 自来也は、その返答にゲコゲコと笑う。 彼らの体と共に、エストレアと大樹のある世界が白い光に包まれていった。 「ありがとう、エストレア」 ☆ 話し終えた後、スッキリとした顔の沙耶に、佐治は目つきを鋭くさせる。 「おい、藤八。てめぇ何しに行ったんだよ!せめて『今までありがとう!貴方の事は忘れない!』とかヒロインっぽいこと言ってこいや!」 「なっ、失礼な!最後にきちんと挨拶しましたよー!」 「えっ、まさか回想の時の最後のアレって…」 「甚目寺じゃなかったんかや?」 衝撃の真実に、紅葉を除いて驚く3人。 「はい、お茶を淹れましたからどうぞ」 「もりーさん有難うございます」 「沙耶先輩、もう日野守では…」 「ではがみーさん?」 「…いえ、もうなんでもいいです…」 諦め気味に笑うと、紅葉は自分の分のお茶を取る。 佐治が一気に飲み干すと、まるで修学旅行かのように話を振った。 「おう、じゃあ次は福良な」 「ええっ!?私、特に話なんてありませんよぅ~…」 「六角屋と付き合ってんだろ?電話しろ電話」 「佐治先生最低ですね…」 ええ~…と困った顔をしていると、ちょうどタイミングよく練へと電話がかかってくる。 発信者を見ると、六角屋灼の名前が。 おお~!と歓声をあげる沙耶と佐治とつつじ。 「出なくていいんですか?」 「う、うん出るけどっ…」 出ていいのかな、と呟きながらも紅葉に促された練は、周りの期待の眼(主に佐治だが)に小動物のように怯えながら電話に出る。 「あ、あら「はい六角屋残念でした俺~!」あっ、佐治長先生辞めてくださいよぅ~!」 『いい歳して何やってんすか…』 電話に出た練の携帯電話を取り上げた佐治は、言いたい事だけ言って練へと返した。 灼の呆れた声は聞こえなかったのが幸いだろう。 聞こえていたら、佐治がキレて更に厄介な事になっていたからだ。 「どうしたんですか?あれ、今日って休みの日じゃ…?」 『いや…藤咲がネットで見せてくれた紅の様子が酷かったから…。そっちは出動掛かってないのか?』 今日は全国各地で、手の空いているハンターはいつでも出動できるように待機してるんだなあ、と思いつつ、練は待機中である旨を伝える。 そっか…と呟くように言った後。 『葵は崖崩れがあちこちで起きてるから、今向坂さんと一緒に、藤咲の指示で動いてる。その、そっちも気をつけろよ…?』 「…はいっ。あらたさんも気を付けてくださいね?」 分かってる、と返してきた相手に、嬉しそうな顔をしている練。 が、すぐに周り(主に佐治)の眼に気付くと、慌て始める。 「あ、そういえば沙耶先輩もいるんですよっ。代わりますね!」 「えっ、練さん?!」 押し付けるように渡された携帯電話に、一瞬戸惑いの顔を見せたが、すぐにコホンと咳払いをする沙耶。 「おお、六角屋。久しぶりであるな。なんか志島を見かけぬ気がするが、近頃会ったか?」 『あいつなら、また西大陸に行くために飛鳥の港にいるらしいっすけど…』 「ふむ、志島も頑張っているんだなあ」 そうすね…と返され、沈黙。 佐治がたまらず「もっと他の奴の話題を振れ!」と、沙耶に助け舟を出す。 しかし、他に出す話題も特に思いつかない。 「むむむ…」 『六角屋くん、B-32エリアで崖崩れが発生!私達の受け持ちだよ。急ごう!』 『あ、了解…。それじゃ切るから、練にもよろしく伝えといて…』 遠くで向坂維胡琉の声が聞こえたと思ったら、どうやら出動のようで灼に電話を切られる。 「なにがむむむだ!」と佐治から批難されていると、佐治と紅葉、練の携帯が同時に鳴った。 練と紅葉はメールのようで、携帯電話のメールボックスを確認する。 「お、侯からだ。…おう、俺だ。今?紅ギルドにいるんだが…何?」 「大変です!ハナちゃんからメールで、粥満のリニアがストップしたって…!」 「このまま、はーちゃんは粥満ギルドで待機するそうですっ」 「…蒼は人手が足りないみたいで、紅から蒼に向かってるハンターも向こうで活動を続けるみたい。紅の交通機関も止まったらしいから、他にギルドに戻ってくる人はいないかもしれんね」 「侯らも粥満ギルドに缶詰らしく、そっから指示を出してるみてえだな。とにかく、俺達も出るぞ!紅の被害状況と対応を送ってきやがったから、俺達で何とか対処しなきゃならねえ!」 タブレットを見ながら、つつじが佐治に伝えるように言う。 佐治は頷くと、面々の顔を見て考え込む。 「やっぱりさっき俺様がマーキングしてた三カ所がヤバいらしいんだわ。 で、義貴の臨時ギルド員バイトはここで打ち切るから、俺と共に三好町へ向かう。 一番距離が遠いから、俺のバイクでぶっ飛ばしていくぞ!」 「…りょーかい」 要するにこんな雨風が凄い中、バイクで二ケツという事らしい。 他の者も心配そうに見ていたが、「何とかなるよ」と余り芳しくない表情で応えるつつじ。 「それよりも、なんで佐治先生と一緒にいるのかと思ったら、義貴先輩も依頼だったのですねー」 「おう、神風支部は来年で潰れっから、ギルド員とか週2で紅ギルドから頼んでんのよ。知らんかった?」 「は、初耳です…。あ、じゃあ私もその依頼を…」 「福良はダメだ、ガキ共にいいように言いくるめられる」 「そんなぁ」 少し笑い声が響き、緊迫した状況が和む。 気を取り直し、佐治が咳払いをして沙耶と紅葉を見た。 「藤八と日野守はここから一番近い淡嶋町へ。ダムが決壊して、地元の消防団が食い止めてるんだが、水棲系の魔物が出てるらしいんだわ。 消防団を守りつつ、魔物の排除がメインだな。ダムはどうしようもねえ、下手に水の流れを操作しようなんざ、二次災害になるからほっとけ。 幸い、ダムの下にある3軒の家の住民は、既に避難したみたいだしな」 「了解です!ではもりーさん行きましょう!」 「はいっ!」 紅葉と沙耶は、雨合羽を着こむとギルドから出て行った。徒歩でも20分の距離だ。 佐治達がバイクで1時間と考えたら、近いと言えるだろう。 「あ、あの佐治長せんせいっ…」 「おう、福良。てめえは一人で西蘂町って場所に向かえ。紅のギルド員が車をそこまで出してくれるらしいから、それに乗ってな」 「私一人です…?」 「安心しろ、東雲にも来れたら来いってメールいれてっから!川が氾濫してっけど、西蘂町に先に向かったハンターのお陰で被害が最小限でおさまってるらしい。てめぇはとりあえず怪我人の救護と、避難場所になってる教会には子供がいっぱいいるらしいから、てめぇが適任だろ」 「は、はいっ…頑張ります!」 「何かあったら、すぐに連絡してね」 緊張している練に、つつじが優しく声をかけた。 そして、すぐにギルド員がやってきて、練と車で現地に向かったのを確認すると、佐治とつつじも現地に向かうのだった――。 ◆義貴つつじ 異次元帰還後、紅ギルドに変わらず所属。 主に遺跡探索に興味を示し、よく城ヶ崎憲明と共に各地に出向いている(が、大和の遺跡のみ)。 紅では今回のように、神風学園支部の要請でギルド員の助手として手伝う事も。 恋人と変わらず同棲している。 ◆佐治宗一郎 異次元帰還後、神風学園ギルド支部の支部長として働いていたが、アドラメレクの改編のせいか、予算的にもきつい神風学園支部の廃止が決定する。 最近のガキは神風出ても就職しかしねえ!と怒りつつも、ハンターがそこまで必要のない時代が来ているのかな、と少し嬉しくもあったり。 支部長解任後は、引退も考えていたがギルドのハンターとして復帰。 Aクラスハンターの一人として、他のハンターをけん引していく立場となる。 ☆ その日の夜。 淡嶋町では、ダムの上流の方で二人のハンターが戦っていた。 「もりーさん!八時方向に3、二時方向に2です!」 「了解です!やあっ!」 沙耶の天照大神の狼二匹も、子犬程度に可愛く劣化していたが、霊感少女ならぬ五感を高め、狼に周囲を走らせることにより真っ暗な周囲を把握していた。 紅葉は彼女の言う通りに、アサルトライフルを振るう。 銃撃がメインで、沙耶に近づいた魔物はブレードに切り替えて切断していくという戦闘方式だ。 「それで一旦最後のようです!もりーさんお疲れ様でした」 「いえいえ、沙耶先輩も。指示助かりました」 豪雨で視界が悪い中、お互いに笑みを見せたのはなんとなくわかった。 少し安堵をしつつ、その場で休憩をとる。 このダムの上流では、魔物避けの柵が今回の台風によって壊れ、魔物がなだれ込んでいるのだ。 1時間近く交戦を続け、やっと休憩。 豪雨での戦闘経験が薄い二人は、疲労も強く感じていた。 「はあっはあっ…」 「もりーさん、大丈夫ですか…?」 「はい、平気です…」 沙耶も疲労が無いわけではないが、実際に重たいライフルを振り回している紅葉の疲労は計り知れない。 沙耶は回復もできるわけではないし、既に回復なら休憩最初にオーラを自分に使っているのを見た。 それでも回復しないとなると、体力よりも精神的な問題だろう。 「そういえば、もりーさんは神風学園に行ったりしていますか?」 「え?…いえ、卒業後はめっきり」 「週に一度、もしくは隔週に一度のペースで神風学園高等部、天文部に茶菓子を届けてお茶をするのが習慣でして。そうしていたら最近、学園で妙な噂を聞いたのですよ」 「妙な噂、ですか?」 緩く頷き、沙耶は目を閉じる。 すうっと息を吸い込むと、彼女に狐耳と尻尾が生えてきた。 「最近、妖狐が出ると」 「明らかに沙耶先輩の事じゃないですか!」 「こうしている方が、第六感というんですかね、それが働くんですよー」 朗らかに笑いつつ、息を整える沙耶。 実際キュウビの特殊技は、今の彼女には数分しか持たない。 発動条件も変わり、持続性が無くなった今、彼女が紅葉のためにできる事は、少しの間だけでも雨を彼女にあてないことだった。 効果も大分変わったキュウビ中は、周囲に火の力の結界を生み出す。 絶系統の魔術と同じように、水の効果を防ぐ力が生まれつつ、沙耶の火属性魔術のブーストを行うのだ。 「沙耶先輩…有難うございます」 反応があったようで、狼が吠えている。 紅葉は礼を言うと、再びアサルトライフルを構えた。 沙耶が言わなくても、キュウビの力で周囲の雨が止んでいたため分かった。 いや、雨が止んでいたためか。 周りを既に何匹の魔物に囲まれている事が。 「ふう…いつでも行けます!」 「ファン九号として、此処だけは死守しなければ…。私達の日常を守りましょうっ!」 気合を取り戻した二人。 再びライフルを持ち暴れる紅葉に、辺りを感知しつつ、的確に指示を出していく沙耶。 そんな沙耶の携帯電話には、甚目寺禅次郎の先程届いたメールが入っていた――。 ◆藤八沙耶 異次元帰還後、大学部へと進学。ハンターはそのまま紅ギルドへ。 蒼の実家に頻繁に帰るようになったが、依然紅の叔父の木蓮神社から通っている。 怪異探知ができる自身の特性を活かし、甚目寺禅次郎の助けになっている事も。 最近の悩みは、天照大神の狼が成犬から子犬になってしまったこと。 ☆ 練は、西蘂町の川へと来ていた。 既に町の大多数は、高台にある教会への避難が完了している。 被害が出ないよう、辺りに結界も先に来ていたハンター、安土優が行っていた。 このままなら氾濫しても、民家の被害はあっても人的被害はないだろう。 「何か胸騒ぎがします…」 一人だからもあるだろう。 だがそれよりも、嵐の前の静けさと言ったように、何かハンターとしての勘が働いているのだろうか 「勘ってやつか。おそらく間違ってないぜ」 「はい…安土さんもですか?」 ああ、と頷くと安土は最後の符を町の入り口に張る。 今張っている符は、周囲100メートルの範囲に水を寄せ付けない符らしい。 それを等間隔で氾濫しそうな場所に張っていくことで、町への水害の被害を最小限に抑えるようだ。 「こういう時は何かあるもんだ。それがハンターの勘って奴さ」 「よくわからないですけど、なんだかこう…不安になってくるというか…」 話していると、突如轟音が響く。教会からだ。 「なっ――!?福良、急ぐぞ!」 「はいっ!」 二人が豪雨の中、全速力で教会まで駆けてくる。 するとそこには巨大なゴーレムのような魔物が出現しており、教会の壁を叩き壊していた。 「魔物!?どうやって入りやがった!?」 「…安土さん、結界張ります!」 言うが早いか、すぐに練は辺りに青い花を咲かせた。 常世の蒼花。 ダメージを軽減する効果の持つ結界を発動する。 ガンガン攻撃するゴーレムの攻撃を軽減はしているが、このままでは教会に避難した住民達が作ったバリケードはあっという間に破られてしまう。 安土はそれを阻止すべく、ゴーレムにハルバードで攻撃を始める。 「福良!後方から支援を頼む!」 「…はい!」 アドラメレクがいた世界ならば、あの頃の強さならばこんなゴーレムもすぐに倒せただろうが、今はそれがいない世界。 力もかなり落ちている。 このままではゴーレムがバリケードを破るのが早いか、安土が倒すのが早いか微妙な所だろう。 もし、こんな時に他の魔物が現れでもすれば…。 「シャアー!」 「グゲゲゲ」 「グルルル…」 「う、嘘…」 練が振り返ると、背後に無数の魔物がいつの間にか出現している。 クワガタ、カエル、狼と多種で大量の魔物だ。 本当に、いつの間に出現しているのか分からない。 こうも気配を感じさせずに、やってこれるものなのか。 「福良!俺がこっちを専念している間、お前はそこを何としてでも死守しろ!」 「は、はい!」 相手は雑魚魔物と言っても、余りにも数が多すぎる。 多勢に無勢。それでも、町の住民のためにやらねばならない。 「えいっ!」 魔力で生み出した鎌を振るい、近くの魔物を二体撃破する。 しかし、狼型の魔物は回避し練に反撃。 ダメージはそれほどでもないが、このままでは安土がゴーレムを倒す前に練が持たない。 もう一度鎌を振るい、今度は三体撃破した。 まだまだ大量にいる魔物の数体は、練の横を素通りし安土へと攻撃を始める。 「ッ…!」 「ああっ…安土さん!」 「バカ野郎!俺なんか気にしないで、そっちに集中しろ!」 そう、安土に向かった魔物を構っているうちに、魔物の大群の防衛ラインが押されてしまう。 そうならないためには、練が踏ん張らねばならないのだ。 だが、練には範囲攻撃が無い。 色々な特殊技が、改編と共に消えた今、こうしてソウルディスサイズで少しずつ倒すしかない。 …いや、一つだけ方法はあった。 「安土さん…!」 安土の返事は無い。 ゴーレムだけでなく、練が漏らした魔物の排除も行っているため余裕がないのだ。 練はきゅ、と唇を噛み決心したように息を吸い込む。 次の瞬間、鎌を自分へと振るい、結界の効果を消滅させた。 「福良!?」 ダメージ軽減効果が消滅した事に驚いている安土に、練は凛々しい顔つきで言った。 効果は以前と比べるとかなり落ちてはいるが、自分にも使えるようになった鎌。 それで魔力を回復した練は、大技の発動準備のため魔力を練り上げる。 「安土さん、倒しきれなかったらすみませんっ!白薔薇ちゃん…きて!」 練の体から魔力が抜けていき、限界以上の魔力放出のため練の体が持たずその場にへたり込む。 彼女の頭上には、白い薔薇に包まれた少女の姿があった。 言うまでも無くこの特殊技も劣化はしている。 だが、それでも。 「グアアア」 「ゴゲゲゲ」 「キャイン!」 巨大な剣閃が辺りを薙ぎ払う。 魔物だけを排除し、建物や安土には当たらず。 その一撃は全ての魔物を排除した。 「ハッ、根性見せたじゃねえか!」 「安土さん、後はお願いします…」 残るは、ゴーレムだけ。 この魔物だけ異常に耐久力が高い。 この魔物達のリーダー的存在なのだろう。 しかし、そんな魔物でも、何者かに動かされているような様子がある。 「ギョアアアア!」 「そ、そんな…」 「おいおい、マジかよ…!」 練の不安を煽るように。 再び大量の魔物が出現した。 そして、その中央に巨大な一つ目の化け物がいる。 この辺に棲息する魔物ではないその化け物に、練は見覚えがあった。 数人を殺害し、卒業式の後に行成ハナ、紅葉、祠堂統と共に戦い、倒したはずの悪魔の残党。 おそらく復讐しに来たのだろう、ゴーレムだけに任せ、他の魔物は練だけを狙っている。 『ゴエエエ』 「グルルルアア!」 「福良ァッ!」 一つ目の悪魔が指示のような言葉を発すると、練の周りの魔物が一斉に練に襲い掛かる。 安土はゴーレムで手いっぱいのため、そちらに手を貸すことはできず。 練が目をぎゅっと思い切り瞑った時、彼女の頭上から剣閃が放たれた。 「あ…」 「大丈夫か?福良」 「し、しののの先輩…!」 「っと、話は後だな!」 今にも泣き出しそうな福良の目の前に、直が駆けつけてくれた。 直は仕留めきれなかった魔物の攻撃を回避すると、魔力の刃を生み出し構えを取る。 その構えを見ても恐れず、勇敢で無謀な魔物達は直へと襲い掛かった。 「神剣流初伝、滅紫!」 横一閃。 襲い掛かってきた魔物を一掃すると、練へとすぐに符を張り付ける。 ダメージを防ぐ符だ。 「遅いぞ直!」 「すみません安土さん!背後は任せてください!桜御、安土さんの援護を!」 「任せたまえ!」 その声に、安土に加勢するべく縦一閃。 ハンターである桜御亮が駆け付けた。 「その代わり、そちらは任せるよ師範代」 「いや、それはもう返上したから!」 苦笑しつつ、直は次々に魔物を倒していく。 だが、悪魔がいる限り魔物は永久に生み出されるのだ。 「いい加減手伝ってくださいよ!」 直が悪魔の背後に向かって叫ぶ。 そこにはかつて悪魔だった女性、姫神桜が。 「フェルゼちゃんっ…!」 「よく頑張ったな、練」 泣きだしそうな練に微笑みかけると、桜は悪魔の眼に手を触れた。 「うっかり私も騙されてしまったよ。前に仕留めきれていなかったとはな。だが――今度は確実に仕留める」 眼から巨大な芽が出てきて、悪魔の体を瞬時に拘束。 続けて練と同じ鎌を生み出すと、その胴体を真っ二つに切り裂いた。 「直、せっかく連れて来たのだから、時間がかかりそうだから帰るというのは無しだぞ?」 「さすがにそんなことは言いませんよ…。一段落したら、病院に戻りますけどね」 「さて、では残りの魔物も片付けるとしようか!」 豪雨の中、ずぶ濡れになりながらも各地で奮闘するハンター達。 やがて台風も過ぎ去りった頃、佐治や紅ギルド長、侯の元には無事を知らせる連絡が相次いだという。 ◆福良練 異次元帰還後、紅ギルドに所属となる。 ギルドでも救護班所属となり、主に怪我人の救助や手当を扱う事になるため、暇な時はギルドの受付も無給で代わったりもしている。 沢山の人々と繋がりを作りながら、恋人の灼と共に少しずつ歩んでいく。 大体の技が使えなくなったものの、威力は劣化やかなり変わったが以前と同じ技名や発現描写の魔術や特殊技を復元する。 数年後には保育関係の資格も取り、紅ギルドに託児所も開設したいと思っている。 ◆東雲直 異次元から帰還後、紅ギルド所属のまま活動を続ける。 神剣流と符術のハイブリッドハンターとして有名になるが、奥さん一筋でこの台風事件の後、暫く育休で姿を見せなくなる。 が、その間も桜御道場には通い続けていたようで、今でこそ免許皆伝を返したので師範代の任を解かれたものの、いずれは再び神剣流の師範代に。 安土にも相変わらず符術を学んでいるため、ハンターに正式に復帰した後も大したブランクは無かった。 晩年はBクラスハンターにまでなるが、生涯紅ギルドから動かなかったためそれ以上になる事はなく。 一部のハンターからは「もっと積極的に事件に関わればAも夢じゃない」と言われていたが、本人は今のままで幸せをかみしめているようだ。
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「マネージャー、、、」 「日和、、、」 七瀬陸と桐嶋郁弥は呆然としていた。 七瀬陸は約1年ほど自分達のグループを支えてくれたマネージャーである小鳥遊紡を失ってしまった。 小鳥遊紡は彼らアイドリッシュセブンにとって最高のマネージャーであった、メンバーの1人である和泉一織にサポートされていたが、見事アイドリッシュセブンが新人賞を与えられ、1年目でブラホワ(現実での紅白のようなもの)に出るほどのグループにしたのだ。 桐嶋郁弥が失った親友遠野日和も今回は殺し合いに乗ってしまったがいつも郁弥のことを考えている良い友人であった。 郁弥のためと暴走し、周りに迷惑をかけてしまうこともあるが郁弥にとっては大事な、親友だった。 「、、、」 鈴木正一郎はただそれを見つめていた。 彼にとって大事な人物というのはこの戦いには参加していなかった、大田太郎丸も彼にとっては寧ろ滅ぼすべき存在であった。 「鈴木さん、」 「どうした?七瀬」 「この後俺達はどうすれば、」 「決まってるだろ、Dを倒す。」 鈴木正一郎にとって今この場にいる1番の悪は主催者のDであった。 もちろんDを倒せば戦いが終わるので対主催としては当然の思考ではあるが、鈴木の中にはそれを超えた感情があった、 憎き悪であるDを正義として裁く、 他の者達とは少し変わっていて、少し強い気持ちがあった。 「でも、俺達だけでDを倒せるんでしょうか?」 「七瀬、」 「俺達13人を拉致して戦わせた人に、勝てるのかどうか、俺にはわかりません」 七瀬陸の考えはDはとても強く驚異的な存在なのではないだろうかというものだった。 実際13人の参加者を集め、ミラーモンスターが1部エリアに増えるように調整したりと、小学生でもDはただ者じゃないということがよくわかる。 「だったら他の仲間を集めるしかないよ。」 桐嶋郁弥も口を開く。 「他の仲間、、、?」 「そうか、残りの参加者の力を合わせればどんなやつが来ようが倒せる、」 「今ちょうどこっちに来てる人も他の参加者じゃない?」 桐嶋郁弥の目にはもう1人の参加者、 桐山和雄が映っていた。 「おーい!こっちこっちー!」 七瀬陸が向かってきた参加者、桐山和雄を誘導する。 「変身、、、」 七瀬陸達は手を組みたい、そう思っていたが桐山和雄は違った、 彼らを倒そうとしていた。 「陸!下がって!」 リュウガの鎧を装備した桐山和雄が七瀬陸達に向けて走り出す。 「変身!」 鈴木正一郎は先程牙王が使っていた王蛇のデッキを使い変身する。 SWORDVENT SWORDVENT リュウガはドラグセイバー、王蛇はべノサーベルを装備して己の剣をぶつけ合う。 「はっ!」 王蛇がリュウガを切りつける。 「、、、」 リュウガが王蛇を切りつける。 「鈴木さん、」 「陸、僕達もいくよ、」 「郁弥さん、」 「確かに僕達の敵に成りうる人達は皆強いかも知れない、でも戦わなきゃいけないんだ、皆で生き残るために、、、変身!」 桐嶋郁弥は仮面ライダーアビスに変身する。 SWORD VENT 「はあああああああああああ!」 戦士桐嶋郁弥、彼の心は燃えていた、親友日和の分も生きるため、また、日和の敵を討つために ニューヨークエリア 午前4時10分 【鈴木正一郎@自作ロワ】 【状態】ダメージ微小 仮面ライダーインペラーに55分変身不可能 仮面ライダーオルタナティブに変1時間30分変身不可能 仮面ライダー王蛇に変身中 【時系列】ロワ参戦前 【装備】カードデッキ(インペラー、オルタナティブ、ベルデ、王蛇) 【道具】支給品一式 チップカットソー 麻薬 【思考・状況】 0、正義を執行する 1、戦いに乗ったものは殺す(マーダーキラー) 2、人の死の慣れた 3、戦いに乗っていない者達を集める 4、目の前の敵(桐山和雄)を倒す 【七瀬陸@アイドリッシュセブン】 【状態】ダメージ中 持病持ち 仮面ライダー龍騎に1時間30分変身不可能 【時系列】最終回後 【装備】カードデッキ(龍騎、タイガ) ナイフ 【道具】支給品一式 【思考・状況】 0、対主催 1、小鳥遊紡の死に対するショック 2、Dに対する恐怖 【桐嶋郁弥@free!dive to the fiture】 【状態】ダメージ中 仮面ライダーナイトに1時間30分 仮面ライダーガイに1時間35分変身不可能 仮面ライダーアビスに変身中 【時系列】本編第8話後 【装備】カードデッキ(ナイト、ガイ、アビス) スタンガン 【道具】支給品一式 【思考・状況】 0、対主催 1、日和の死によるショック 2、日和の敵討ちのためにDを倒す 【桐山和雄@バトル・ロワイアル(漫画版)】 【状態】健康 仮面ライダーゾルダに1時間25分変身不可能 仮面ライダーリュウガに変身中 【時系列】ロワ参加前 【装備】カードデッキ(ゾルダ、リュウガ) 【道具】支給品一式 不明支給品 【思考・状況】 0、戦いに乗る
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イスに腰下ろした。つい数日前にScudderが座ってウィスキーを飲んでいたイスだ。今、そのScudderは床に倒れている。恐らくは、心臓に致命的な傷を負って。じゃあ、次に、そこに倒れるのはぼくか?間違いなくそうなるだろう、このままこのアパートにとどまれば。どこかに逃げなくては、でもどこへ?Scudderはヨーロッパの東の果てからここまで逃げてきたのに、助からなかった。ぼくがアフリカに逃げても多分追いつかれる、連中はどこまででも追ってくる。どこに逃げても助からないじゃないか、いっそ拳銃で自殺するか?しかしそれでは首相殺しが止められない。でもどうせ死んでしまうなら・・・ 死体の、青白い顔と、そこだけが生前のままの眼に射すくめられ、ぼくは我に返った。ウィスキーの瓶をとって、直接口にする。口の中は相当に乾いていたらしく、水分が浸透するのが感じられる。死体に見つめられていては落ち着かないので、テーブルクロスを顔に被せた。5月でも気温の低いロンドンでは死体の腐敗も遅い。変色しかかった皮膚が見えなくなると、刺さったナイフさえなければ、酔った男が布をかぶって床でうたた寝をしているように見えただろう。 死体が部屋にあるというのは、生理的に恐ろしさを感じるものだ。ぼくはもっと残虐な死に方をした死体を見たことがあるし、昔戦争に参加したときには、自分で人を殺したこともあったが、今の恐ろしさはそれとは全く別のものだった。 腕時計に目をやると、十時半を回ったところだった。だんだんと数を減らしている窓の外の明かりに目をやりながら、手早く全ての窓とドアを施錠した。 そうしているうちに、思考が明瞭になってきた。脳内の警報は最大音量で鳴り響いていたが、それこそが正常に思考している証だった。もはや、Scudderの話が真実であったということは、疑う余地もない___その証拠はテーブルクロスをかぶって机の下に転がっている。彼の敵は、どういう訳か彼が生きていることに気づき、そして口封じを行ったのだ。そして、彼がぼくの部屋で数日間を過ごしたことが敵に知れたと言うことは、彼がぼくに事件の全容を語った可能性を敵に示唆することになり___つまり、もはや彼の敵は、明確にぼくの敵にもなったのだ。今頃、敵のブラックリストの一番上の欄には、ぼくの名前が掲載されていることだろう。そして、今日か、明日か、それとも数日後かわからないが、確実に「それ」は実行に移されるだろう。 そして、ぼくは別の問題にも気づいた。今や、この問題はぼくの手の上だ。ぼくは今すぐに警察に連絡することも、明日の朝掃除係に死体を見つけさせ、その上で連絡することもできる。でも、警察はどう考えるだろう?ぼくはScudderについて何と説明したらいいだろうか?ぼくはPaddockに一度嘘の説明をしてしまっている。彼に裏を取られたら、ぼくが全部話したとしても、誰も信じようとしないだろう。イギリスには頼れる伝は無いから、警察がぼくを殺人容疑で逮捕しようとするのは明白だ。いや、いっそ逮捕されるのもいいかもしれない。いくら敵が強大でも、刑務所の中にいるぼくには手を出せないだろう。ただ、それだと6月15日に自由に動ける保証が無くなってしまう。それでは生きながらえても意味がない。 もしも、百歩譲って警察がぼくの話を全面的に信用したとしても、ぼくはまだ敵に塩を送っていることになる。警察が事件の全容を知れば、Karolides首相のイギリス来訪は確実に中止になってしまうからだ。 Scudderが死んだことは、彼の話が信じるに足るという他ならない証拠だ。そして、秘密を知る唯一の人間になったぼくは、彼の計画を引き継ぐ責任がある。誠実な首相が殺されるのは見るに耐えないし、ぼくがScudderの代わりになることができれば、殺人は失敗に終わるだろう。 ぼくは6月15日まで姿を隠し続けることを決めた。そして、政治家の誰かとコンタクトを取り、うまく手を回してもらって事件を防ぐのだ。その政治家がぼくの話を信用しないことも考えられたが、それまでにはぼくの話を信用させるための、明確な証拠が見つかっているかもしれない。たぶん、これが最上の手だてだろう。 ぼくは、Scudderがもっと詳細な話を語っていてくれれば、ぼくがもう少し真面目に彼の話を聞いていれば、と悔やんだ。しかし、一瞬後には思い直す。後悔している時間はない。今、この瞬間も、ぼくは敵に狙われているのだ。 今日の日付は5月の24日。6月15日まで20日近く隠れ続けなくてはならない。ぼくは今、二つの脅威にさらされている__一つ目は、言わずと知れたScudderの敵、そしてもう一つは警察だ。敵は全力でぼくを始末しにくるだろうし、警察は殺人容疑でぼくを指名手配するだろう。 これからの3週間が厳しい逃避行になることは目に見えていた。でも、自分でも驚いたことに、ぼくは今の状況に満足感すら覚えていた。ぼくは、もともと、一カ所に腰を据えて何かをするのは好きではない。だから、今感じているような緊迫感は心地よく思うのだ。そして、何より、戦況は膠着状態で、まだまだ悪くはなっていない。緊張感を楽しめるレベルだった。 ぼくは、Scudderが何か情報を書き残していないかと、部屋の中を探し回った。無論、彼の死体はテーブルクロスを被せて放置したままである。ふとした瞬間に目に入ってしまうそれは、不気味さとともに奮い立たせるような何かを放っていた。「彼の後を任されたんだ」という気になるのだ。書斎の引き出しを探り、本のページの間をも確認し、あらかた探し終えたと思ったぼくは、Scudderがメモを身につけている可能性に思い当たった。事件に関わる情報が書かれているならば、その可能性は高い。問題は、メモを探すには死体を探らなくてはならないという点だった。少し迷った後、ぼくは意を決してScudderの顔に被せたテーブルクロスに手をかけた。 ほんの少しの小銭と記入済みの部分が破り取られたメモ帳。見つかったのはたったこれだけだった。恐らく、殺人の実行犯が持ち去ったに違いない。 死体から視線を上げると、食器棚の戸が開け放されていることに気がついた。Scudderは几帳面で、常に自分の周りを小ぎれいにしていた。敵の一味が何かを探して、荒らし回ったのだろう__おそらくはScudderのメモ帳を探して。部屋の中を見て回ると、他にも探られたと思しき箇所はたくさんあった。衣装ダンスの中、棚の下、果てはぼくの衣類のポケットの中まで。今ぼくが見つけたメモ帳は破りとられた形跡があるから、敵も最後にはこのメモ帳にたどり着いたのだろう。 ぼくは、イギリスの地図を取り出した。ぼくの計画の概要は、簡単に入国できる外国に脱出することだ。ぼくはアフリカに行こうかとも思ったが、ぼくがアフリカにいたことはもう敵に知られているだろう。先回りの危険性があった。それ以外だと、スコットランドは良い選択肢に思えた。ぼくの家族はスコットランドの出身で、ぼくもスコットランド人になりすますことが簡単にできるからだ。ドイツ人旅行客のふりをするのもいい。ぼくの父にはドイツ人の同僚がいて、ぼくも子供の頃に、その人とドイツ語で話したことがある。 いろいろ考えたが、移動の手間と安全性を考えると、スコットランドが一番良いように思えた。 そうと決まると、早速時刻表を取り出してロンドンからスコットランド方面への電車を確認した。逃げ場のない電車の中で一晩過ごすのは不用心だから、一日でたどり着く方がいいだろう。7時10分発がちょうど良い。早朝に出発して、午後遅くにはGallowayに到着する。 問題は、この部屋から駅までの道のりだった。Scudderの敵は確実にこのマンションを見張っているだろう。ふつうに部屋を出て駅に行ったのでは、後をつけられて、最後には捕まってしまう。ぼくは、これに関しては良い考えがあったので、数時間仮眠をとることにした。 鳥の鳴き声で目を覚ますと、寝過ごしたのではないか、と一瞬不安になったがどうやら杞憂だったらしい。まだ早朝4時だった。ようやく上ってきた朝日がカーテンの隙間から射し込んできている。ぼくは、たまにトレッキングをするときに使う、古い外套とブーツを身につけた。防虫剤のにおいが鼻につく以外は、何も問題ない。替えのシャツを鞄に詰め込み、どうしても入らなかった洗面用具をサイドポケットに押し入れる。おろしてきたお金の存在がとてもありがたい。「駅に行く前に銀行に」などという悠長なことは言っていられなくなったからだ。ぼくの全財産を、いくらかずつに分けて鞄のあちこちや服のポケットに詰め込む。さらに、脱出の下準備として、ぼくは口ひげをかみそりで剃り落とした。 普段、毎朝ぼくの部屋に来る人が二人いる。一人は掃除係で、こいつが来るのはだいたい7時30分くらいだ。そして、その前に一人、牛乳の配達員がくる。口ひげを短く剃った若い男だ。彼の牛乳瓶をぶつかり合わせる音で、いつもは目が覚める。 この配達員になりすまして外に出るのが、ぼくの考えだった。つまり、すぐに動き出したくても、待つこと以外何もできない。とりあえずはウィスキーとビスケットを朝食代わりに食べてみる。6時になった。配達員は、来ない。いつもくるのは6時40分といったところだから、まぁ普通だろう。たばこを吸ってみることにした。入れ物に手を入れると中は空だった。しまった、もう切らしていたか、とそこの方を探ると、堅いものにふれた感触があった。取り出すと、果たしてそれは、Scudderの黒いノートだった。内容は__ 破られても消されてもおらず、書かれたままだ。 これは、Scudderからぼくへの手向けかもしれない。「ぼくはここを離れる」ぼくは言った。死体から答えは返らない。「やれるだけのことはやってみるさ。せいぜい健闘を祈っていてくれ。」時刻は6時30分になった。そろそろ配達員が来てもおかしくない。ぼくは荷物を持って玄関ホールに立つと、外の様子を窺った。 7時46分。さんざんぼくを焦らした末に、やつは来た。やり場のない動揺をぶつけるようにして、ぼくは扉を思い切り開いた。思ったより音は出なかったが、配達員は驚いた顔でこっちを見た。「えっと…?」「ちょっといいですか?」ぼくは返事を聞く前に配達員を部屋に引き込んだ。 「突然で申し訳ない。ぼくは今、ある人と賭をしているんだ。そして、勝つためには、君の協力が必要なんだ。仕事中?いや、問題ない、すぐに終わる。君のそのコートと帽子を貸してくれればいい。そして、君はこの部屋でほんの数分間待って、その後仕事に戻ればいいんだ。コートと帽子はどうするのか?ああ、それならそれ相応のお金を払おう。ほら、これだけあれば会社から弁償させられてもお釣りがくるだろう__よし、交渉成立だ。協力感謝する」 よくこれだけの出任せが口をついて出てきたものだ。でも、首尾良く道具は揃った。ぼくは配達員の仕事着を身につけると、空の瓶を抱えて部屋を出た。口笛なんか吹いているのは仕様、というかこれが王道だから仕方ない。 通りには、誰もいなかった。心配しすぎだったか?と思ったが、前から男が一人歩いてきた。一瞬視線を絡ましてきたが、すぐに通り過ぎる。振り向いてみると、ぼくの部屋の窓を注視している。 口笛を吹き続けながら通りを渡る。しばらく歩きながら周囲を確認し、細い路地に飛び込んだ。牛乳配達員の服と帽子、空の瓶を放棄した。誰かが見つけても、そのころにはぼくはもうスコットランドにいるだろう。ふと時計を見ると、7時を指していた。 戻る 次へ